第78章 交錯
濡れた唇が、角度を変える度に微かな水音を響かせていく。
涼太が飲んでいた白湯の残りが唇を伝って入って来て、それがまるで体液を交わしているみたいに、淫靡で。
理性とか、分別とか、そんなものを全て取り去ってしまうような行為だ。
頭がぼうっとして、いつの間にか手に持っていたマグカップがない事に気が付く。
落としてしまったかと慌てて目線を泳がせると、シンクの作業台の上にカップがふたつ並んでいるのが見えた。
悔しいくらい余裕で、器用なひと……いつの間に。
「……っ、ん」
久しぶりに触れた唇に、肌に、体内の熱が急上昇していくのを感じる。
ダメ、今日はこんな事をしてる場合じゃないって、そう思っているのは本当なのに……涼太の腕を掴む手に力が入らない。
ぬるりと侵入する舌が、戸惑いとか不安とか、負の感情全てを持っていってしまう。
唇が離れた隙に囁かれる私の名前は、まるで別のもののように甘く聞こえて。
虜だ。
五感が、支配される。
がくがくと震える腰と後頭部を支えられたまま、ラグの上にゆっくり押し倒されて……思考にかかった靄が、一瞬晴れた。
「りょっ、涼太」
「みわ……も、ちょっとだけ」
「ぁ、だめ、だってば……」
「ね、クチ開けて」
「んぁ、ん」
密着した部分で感じるのは、彼の……昂り。
衣服越しにも伝わる、熱。
「気持ちい……みわ」
「ぅう……ん」
からだが、しびれるみたい。
無意識の内に、膝を擦り合わせてしまう。
真ん中が、ジンジンと熱くて疼く。
「あ……っ、ぁ」
長い、長いキス。
時折、額や頬、鼻筋に落とされる口づけに、こころが揺れる。
ゆらゆらゆらと揺れて、このまま流れていってしまいたい。
そんな風に感じてしまうほどの、幸せな時間。