第78章 交錯
涼太の手の中にあるのは、有名な輸入食品ショップのアルファベットのロゴが入った、焦げ茶色のマグカップ。
左隣が、あったかい。
隣に立ってくれているだけでこころが落ち着く、精神安定剤みたいなひとだ。
「胃に優しいっスね」
「そう、だね……」
涼太は本当に、一緒に白湯を飲み始めてしまった。
なんか、無理矢理みたいで申し訳ないんだけど……
「みわ、ありがとね」
「うん?」
緩やかに弧を描いた瞳と唇。
予想していなかったその柔らかい言葉に、一瞬反応が遅れて。
「焦って、ちょっと無理したっスわ」
「……うん」
涼太が何故そんなに焦ってしまっていたかは分からないけれど、でもそれを自分で気付けているから、大丈夫だと思う。
「いつもは、気付かないんスよね……当たり前にそこにあるから、見えなくなっちゃう。でもふとした時にさ……気付くんスよ。オレを支えてくれる、大事なヒト達の存在を」
その言葉に、このひとのいいところ、再確認した。
自分を客観的に見れて、ちゃんと素直に反省も出来るところ。
他人を見て素直に認められる彼だから、完全無欠の模倣という技も自分のものに出来たんだって、分かる。
それは、他人を貶めて自分を上げようとするような思考のひとには、絶対に出来ないもの。
だから、皆に愛される。
「みわ、これからもオレと一緒に居てくれる?」
じわり、その言葉が無性に胸に沁みて、こころに沁みて、言葉が出ない。
その質問をしたいのは、私の方だ。
涼太の隣に居ていいのか聞きたいのは、私の方。
「うん……一緒に、居たい」
ずっと思ってる。
一緒に居たいって。
気持ちばかりが大きくなって、身動きが取れなくなってた。
でも、今は違う。
目の前に、大きくなるためのチャンスも貰ってる。
頑張るって決めたんだ、涼太の隣に居るためにって。
「みわ」
涼太の右腕が、私の腰に巻きついて……
私の唇が“あ”のカタチを作る前に、彼のそれと重なった。
「……ん」
段々と深くなっていく繋がり。
それはとっても優しくて、でもこれ以上にないくらい、官能的だった。