第78章 交錯
「みわ、今日は本当にありがとう。心配かけて、ごめん」
涼太は再びそう言って、オヤスミと挨拶を交わし、布団へと入っていった。
結局、涼太はお客様用のお布団で寝て、私が涼太のベッドを借りる事になってしまった。
いつもお布団で寝てるから、構わないのに……。
気を遣わせてしまったみたい。
羽毛布団をめくりあげて身体を滑り込ませ横たわると、なんだかホッとした。
今日は朝からバタバタしていたから……やっと、気持ちが落ち着いてきたのかもしれない。
マクセさんからお話を頂いた大阪の大学の件とか……考えなきゃいけない事は山ほどあるんだけれど、今日はなんだか頭が働かない。
余計な事を考えずに、今日は寝た方が良さそう。
お布団を掛けてさあ寝よう、と思ったのも束の間……涼太の香りにつつまれた。
そうだ。ここは涼太の寝床。
甘い残り香が、私の中の彼の存在感を、あっという間に膨れ上がらせる。
「ゴメン! みわ、枕カバー替えてあげようと思って忘れてたっスわ」
「あっ、だ、大丈夫! そういうの、あの、気にならないタイプだから、大丈夫!」
折角横になった涼太がまた起き上がろうとしているのを見て、思いっきり止めてしまった。
「ホントに? イヤじゃないスか?」
「うん、本当に、大丈夫」
……って言ったけど、大丈夫じゃない。
全然、全くもって、大丈夫じゃない。
何、これ。
息をする度に、ふわんふわんと涼太が身体の中に入ってくるみたい。
ドキドキして、心臓が飛び出しそうだ。
ばかばか、何考えてるの。
今は、そんな時じゃない。
きっと、彼に会えない時間が長すぎて、おかしくなっちゃったんだ。
やだ、変。
これは、ダメだ。
居ても立ってもいられなくなって、思わず布団から飛び出した。
「みわ?」
「あ、あの、ごめんなさい、寝る前にちょっと、何か……飲みたくて」
「なんか淹れよっか」
「ううん、いいの、大丈夫だから、本当に!」
もう、おかしくなるくらい必死だ。
涼太に気付かれないように、自然さを装ってキッチンを目指した。