第78章 交錯
「はぁ……極楽だった」
寝る前に風呂に入りたい、そんな事を言ったら、珍獣を見るような目をされてしまった。
オレが風呂場で倒れるんじゃないかって心配されて。
じゃあ一緒に入ろうと願望を込めまくったオレの提案に、みわは首を縦に振った。
背中を洗ってくれて、シャンプーもしてくれて。
あの、髪をわしゃわしゃされるのって、すげーキモチいい。
なんか久々にすげー幸せな時間だった……。
終始心配そうに見守られて、折角一緒に風呂に入ったというのに全くイチャイチャ出来なかったのはちょっと、アレだけれども。
浴槽内でぴったりと密着した肌は、相変わらずマシュマロみたいに白くて柔らかかった。
トタトタと洗面所から戻って来た彼女の手には、洗い流さないトリートメントとドライヤー。
まさかこれは……
「乾かすね」
「あ、うん、よろしく、お願いするっス」
やべー、オレ……幸せすぎてまたぶっ倒れるかも。
でも、紫原っちみたいに髪長くしておけば良かったと後悔するほどに、幸せタイムはすぐ終わってしまった。
後は、寝るだけだ、けど……
みわは、テーブルを隅に寄せて寝れるスペースを確保しようと頑張ってる。
ま、そうなるっスよね。
いつもみたいに、ベッドで密着して、ってのはナシっスよね。
仕方ない。全部オレが悪い。
みわは、ラグの上に横になろうとしてる。
「待ってみわ、最近布団買ったんスよ」
「え……そうなの?」
今まで、ベッドしかなかった我が家。
みわが泊まりに来たらベッドを一緒に使うからそれでも問題なかったんだけど……最近、1組だけ布団を買った。
「センパイ達が事あるごとにウチで飲むからさ、潰れた時用」
「ふふ、そうなんだ、仲良しだね」
実際に結構出番があるんだ、コレが。
潰れたヒトは床に転がしておいてもいいかなとも思ってたんだけど、一応ホラ、ねえ?
収納棚から布団を出して、みわに手伝って貰いながら(いいって言ってるのに)敷き終えた。
「んじゃみわは、ベッドに寝てね」
「え? 私、お客様用布団でいいよ」
「いや、いいんス」
嫌なんだよな、例え少しでも他のオトコが寝た布団。
いや、センパイだけど! センパイだけど!
布団も干したしカバーも洗濯したけど!!
繊細な男心である。