第78章 交錯
みわは、さっきよりもずっと沢山の食材を抱えて帰ってきた。
「大丈夫? ごめん、やっぱオレも行けば良かったっスね」
白い掌は、スーパーの袋の跡がついて赤くなってしまっていた。
みわは、大丈夫だよーと軽く言って、またキッチンへ立った。
「涼太、少し何か胃に入れた方がいいよね。茶碗蒸しとかどうかな」
気を遣わないでと言おうとした途端、反論するかのように腹がグウと鳴った。
みわは笑いながら電子レンジで簡単に作れるのだと言って、本当に僅かな時間で作り上げてしまった。
んん、ウマイ。
2人でいると、どうしても話題はバスケの事になる。
「青峰さんと火神さんと一緒のチームでプレーするの、すごく久しぶりだよね」
「そっスね、高2以来?」
青峰っちも火神っちも、全日本代表のメンバーとして選ばれた。
そして、2人とも海の外……NBAへ挑んでいる。
NBAの下部リーグの内の数チームからトライアウトへ招待されたんだ。
オレも、その話がない事はなかったんだけど……今はまだ、日本で目標があるし。
あの2人は、これで縁があれば、晴れてリーグ入り……だけど、どうなることやら。
青峰っちなんか相変わらずマメに連絡寄越さないから、いつも状況は桃っち経由。
「皆、上手くいくといいなぁ……」
「ホント。オレも負けてらんないっス」
トントントン、包丁の音が耳に心地良い。
手伝うって言ってるのに、今日は絶対ダメだと言われて。
鍋が煮える音、水道の音……生活音と呼ばれるそれが、こんなに安心するものだとは思わなかった。
ずっとこうして喋っていたい。
「……涼太、大阪って……行った事、ある?」
「ん? 大阪? 旅行はないけど、大会とかで何回か」
突然の不思議な質問だ。
高校の時の大会なら漏れなくみわも一緒に行ったのに。
中学時代も入れたら、数回訪れている街。
大阪……その地名を耳にして、あるチームが頭に浮かんだ。
今年、優勝候補として当たるであろうあの学校。