第78章 交錯
「ごめんね。みわ。オレ……もう大丈夫だから」
その言葉をきっかけに、決壊した。
みわは身体に力を入れて泣かないように耐えてたけど、彼女の腹部に回した腕に落ちてくる温かい雫は……。
分かる。
今のみわの気持ち、痛いほど分かる。
みわが刺された時の光景、いまだに夢に見る。
アスファルトに倒れ込む身体。
死が近付いている証の白い肌。
思い出すだけで肌が粟立つ。
みわに、同じ思いをさせたんだ。
オレから電話を受けて、ワケわかんないままタクシーに乗り込んだ。
彼女の格好はほぼ部屋着だ。
その辺りに置いてあったコートとカバンを何も考えずに掴んで出て来たんだろう。
「ごめんね。心配させて、ごめん」
怒ってるのかと思うほどの強張った表情。
きっと、みわはまだ安心してない。
いつオレが倒れるか、もしかしたら最悪の事態も有り得るのか、想像もしたくない事ばかりが頭を支配しているんだろう。
オレと一緒に居たくて泊まってくれるというよりも、離れられないんだ。
不安で、不安でたまらなくて、押しつぶされそうになる気持ちを必死に抑えて。
大切なヒトがいなくなるかもしれない恐怖は、味わった者にしか分からない。
もう、永遠に会えなくなるかもしれない恐怖と、今日までの全てに後悔を抱くあの気持ち。
さっき、一応実家にも連絡した。
すぐに駆けつけると言ってくれた母親にみわが来てくれてる事を伝えたら、それなら安心だ、でも今度様子を見に行くねと言っていた。
きっと、心配させてることだろう。
オレが今すべきことは、大切なヒト達を安心させること。
無理して無理して動く事じゃない。
「オレ、今日と明日はゆっくり休むからさ。悪いんだけどみわ、一緒にのんびりしてくれる?」
みわは、振り向かないまま何回も頷いた。