第78章 交錯
「え……みわ、居てくれんの?」
そりゃ、明日は会う約束してたけど……そもそも、今日のみわの予定は、一体どうしたんだろうか。
いや、でも頬が緩む。
「涼太?」
「ごめん、迷惑かけてんのは分かってるんだけどさ……一緒に居られるのはやっぱ、嬉しいっスわ」
ニヤけた顔を隠すために、布団の中に潜り込む。
トントントン、とまな板と包丁がぶつかり合う音が響いてきて、布団のスキマからチラリとみわの様子を伺った。
後ろから見ても分かるほどに、彼女の耳は真っ赤だった。
あー、みわだ。
みわがいる。
たまんない。
でもここで後ろから襲いかかったら、デコピンどころの話じゃないだろう。
それこそ、怒って帰っちゃうかも。
「……そう言えばみわ、ここに来るまでメチャクチャ早くなかったっスか?」
なんとか自分の中の欲から目を逸らそうと、気になっていた事を口にした。
あの感じだと、笠松センパイはみわの電話を受けてすぐここに来てくれたんだろう。
みわの到着も、それから間も無くだった。
彼女の家からウチまでは、2時間以上かかるはず。
あんな朝早くから、どこかに出掛けてた?
「あ……うん、車だとそんなに時間かからないよね。慌てて、タクシーに飛び乗ったから」
「タクシー!?」
一度、ネットで検索したことがある。
みわの家からオレんちまでのタクシーでの料金。
もし終電を逃したらどうなるかなと思って。
結果、万単位で金がかかったからやめたんだ。
みわの慌てた姿が目に浮かぶ。
部屋に駆け込んで来た時の、あの表情。
本当に、悪い事をした。
「ごめん、すげぇ金かかったっしょ、オレ払うっス」
「ううん、いいの。私が勝手にそうしただけだから……」
財布を取ろうと起き上がって見た、キッチンに立つみわの背中は、震えていた。
何かを必死で我慢しようとするその姿に、思わず後ろから抱き締めた。