第78章 交錯
ゴシゴシと目を擦って鼻を啜って。
大きく深呼吸をしてから、みわはオレの傍に戻ってきた。
今は、泣いているところを見られたくない筈。
相変わらずひんやりと冷え切った指先に包まれて、少しの時間眠った。
次に目が覚めた時には、日はだいぶ落ちていて。
点滴が効いたのか、ゆっくりベッドで眠ったのが良かったのか、体調はかなり回復し、入院することなくオレ達は帰宅した。
笠松センパイへは、みわがちゃんと連絡を取ってくれていたらしい。
みわだって気持ちが落ち着かない筈なのに、そういうところはキチンとこなしてくれる。
オレを支えながら帰宅し、改めて家の中を見渡したみわは、絶句した。
きっと、さっきは慌てて目に入ってなかったんだろう。
「……涼太……」
「う、ハイ、スンマセン」
落ち着いてみるとなかなかにヒドい。
キッチンは買って来た食いモンの空き容器だらけだし(ついゴミの日を忘れる)、床は衣類が散乱してるし(つい洗濯物を畳むのが面倒で)、ベッドの上は物がありすぎて布団が見えてない(つい着替えとか本とかを置いてしまう)。
みわは、そっとオレを座らせると、物凄い勢いで片付けを始めた。
洗濯物を畳んで、これから洗うものは洗濯機に放り込んで、ゴミを捨てて、プラスチックの空き容器や皿を洗い始めて。
いやいやいや、久々に会った恋人に、そんな事させたいんじゃないんだって!
みわを手伝おうと、立ち上がろうとして……右足に違和感。
あ、これ……やば。
「イテ、イテテ、足、つる」
そう言ったのも束の間、足の先からグワッと広がる痛みと、筋肉が引きつる感覚。
普段滅多につらないのに!
「大丈夫!? 足、伸ばすね」
慌てて駆け寄って来てくれたみわの柔らかい掌が、オレの足の裏を包む。
何度かつま先をすねの方に引き上げてくれると、そのうちに痛みが和らいできた。