第78章 交錯
「みわ……」
「涼太!!」
彼女らしくない、ドタドタと騒がしい足音。
すぐに真っ白な顔をしたみわが近寄り、覗き込んできた。
「りょう、た」
「ごめん……驚かせたっスね」
ぼんやりと見える愛しいヒトの顔。
目の縁が赤いような気がするけど……気のせいか?
ひやりと頬に触れた指は、氷のように冷たく、少し震えているように感じた。
「気分、は」
「ん、ちょっと目が回るけど大丈夫っス。ちょっと寝ようかと」
起き上がってベッドへ行こうと考えてるのに、身体が怠くて動く気がおきない。
仕方ない、もう少し回復するまでここで寝て……
「神崎、連絡ありがとな。ちょっと病院連れてくわ」
笠松センパイが厳しい顔をして、そんな事を言った。
病院?
別にオレ、悪いトコないけど!?
「え、え、オレ大丈夫っスよ、寝てれば治るんで」
「バカ言ってんじゃねえ。現にぶっ倒れてんだろうが。おら行くぞ」
笠松センパイはオレの腋の下に手を入れると、驚く程スムーズにオレの身体を起こした。
みわも、もう何も言わずにオレが起き上がるのを手伝ってくれた。
ダメだ、身体に力も入んねえし……とりあえず病院に行ってなんともない事が分かれば、センパイ達も安心するだろう。
アパートの前には既にタクシーが待機していて、みわが後部座席にまず乗り、オレが後から乗り込む。
笠松センパイも乗り込もうとして……みわに止められた。
「笠松先輩、私付き添いします。状況はまた連絡致しますので」
「おう……助かる。頼んだわ」
海常時代のようなアイコンタクトを交えたやり取りで、すんなりと笠松センパイはオレをみわに任せ、体育館に戻ってしまった。
確かに、あの様子じゃ飛び出して来たんだろう。
何年経っても、ふたりの間にある信頼はまだ健在だ。
しかし、発車した車内でみわはオレに一言も発しない。
怒らせてしまったのだろうか。
そうだ、彼女にも彼女の都合があったはず。
ちゃんと謝らなきゃ。
そう思ったのに、柔らかい肩に頭を預けている内に、また意識は途絶えてしまった。