第78章 交錯
ぽつり、ぽつりと点在している街灯が、オレ達の後ろに濃い影を落とす。
「さむ」
折角風呂に入ったのに……と文句を言いそうになる気持ちをぐっと堪えて、抵抗することなく夜風を浴びた。
「ありがとう。ごめんなさい、迷惑かけて」
彼女と出会って、初めての謝罪だ。
だからといって何がどう変わるわけでもないんだけど。
「いいっスよ。気を付けて帰ってくださいね」
そしてまた、ふたりの間には会話がなくなる。
うーん、流石に気まずい。
オレも疲れてるし、余計な事考えたくないんスわ……。
「流石に、女慣れしてるね」
「ん? そうっスか?」
そう言うや否や、ダウンコートの首元をぐい、と引っ張られた。
急に縮まるふたりの距離。
バスケ選手というだけあって、女性にしては身長が高い。
みわよりも僅かに高いだろうか。
唇と唇が、触れ合いそうになって……するっとそれを躱した。
「ほら、動じない」
「はは、オレ彼女いるんで」
「そうだと思った」
そうだと思った、と言いつつオレにキスしようとする辺り、彼女も相当男慣れしているような。
ま、いくつか知らないけど、オトナになればそういう事もあるか。
間も無く大通りに差し掛かり、視界に入ったタクシーをすかさず捕まえた。
「本当にありがとう。今度はバスケしようね。実際会うよりもテレビの中で見かける方が早いかもしれないけど」
「そうかもしれないっスね。じゃ、気を付けて」
彼女を乗せたタクシーが小さくなっていくのを見送って、踵を返した。
大通り沿いのコンビニで、ほかほか肉まんを買い、食べながら帰宅した。
寒い。風呂に入った意味ナシ。むしろ湯冷めしたんじゃないか、コレ。
はあと深いため息をひとつついて、みわに連絡しようかと手に取ったスマホが、着信を知らせる。
「……モシモシ、黄瀬です。ハイ、え……連絡漏れって、マジっスか。収録はいつなんスか? ……は?」