第78章 交錯
……待て。
整理しよう。今日は取材だなんだをこなして、練習もして。
帰り道……そうだ、公園に寄ったら酔っ払いに絡まれて。
自分ちも言えねーから、とりあえずウチに連れて来たんだったよな。
え、それでどうしたんだっけ?
オレはメシ食って、風呂入っただけ……の筈。
なんで転がしておいた筈のこのヒト、裸なんスか?
そして、なんでオレのベッドに寝てんの?
布団も掛けずにベッドに転がっている身体は、小さめのバストに、割れた腹筋。
肩の辺りから腕にかけての筋肉、太ももから足先まで引き締まっていて……このヒト、アスリートだ。
そんな、色気とは無縁の分析をしていると、閉じられたままだった目がすっと開いた。
「あ、おはよう」
さらっと。
ごく自然に、彼女はそう挨拶した。
「オハヨー、ゴザイマス。何してんスか」
殺気すら込めたその視線を軽くいなして、彼女は自分の身体をまじまじと見つめた。
「あー……またやっちゃったか」
「……また?」
また、って言ったかこのオンナ?
毎回どっかでこんな迷惑掛けてんのか?
「ごめんねえ〜自分の部屋かと思って寝ぼけて脱いじゃったみたい。私、寝る時は裸じゃないと気持ち悪くて。あれよね、いわゆる裸族」
「いいから早く服着て帰って」
太陽の存在は感じられないけど、それほど外が真っ暗でもない。
始発になれば電車にも乗れるし、とりあえずもう追い払いたい。
「タクシー代出すからマジで帰って」
彼女は返事をするでもなく、全裸のままベッドを下り、窓際へ歩いて行き、カーテンを大きく開いた。
「もう少しして始発が動き出したら帰るよ」
そう言うと、えへへ、と笑いながらカーテンにくるまり出す。
頭が痛くなってきた。
「いや、もう今すぐ帰って。オレ忙しいんスよ、もう寝たいから」
「君、黄瀬涼太でしょ?」
ぴたり、時が止まった。
……へ。
「……なんで、オネーサンがオレのコト知ってんの」
「そりゃ知ってるよー。今の日本で、君を知らない方が珍しいよ」
彼女はそう言うと、身に纏っていたカーテンをほどき、再び裸体を窓の外に晒してから、満足げにこちらに戻って来た。
「それに、私もバスケ選手だし」