第78章 交錯
「ちょ、オネーサン」
ぺちぺちと頬を叩いても、何の反応もない。
あれ、この顔どこかで……
そう思ったけど、容易に思い出せるほど近い人間じゃない事に気付いてからは、考えるのをやめた。
「オネーサン、家どこ。送るっス」
「んー……うみ」
「海に捨てて欲しいんスか」
「いいよー……」
…………。
捨てて帰ろうか。
海じゃなくても、ここで。
いや、こんな夜の公園で酔い潰れて、変質者に犯されでもしたら……
脳裏にいつでも浮かんでくるのは、傷付き、ボロボロになったみわの姿。
2度と忘れる事は出来ないだろう、あの悲惨な状態。
やっぱり、放ってはおけない。
交番……この辺になかったよな。
110番通報とかすりゃ、来てくれんのか?
いや、そうなったら怪しまれるのはオレ?
「ねえ、タクシー乗せたげるからさ、自分ちどこだか言える?」
「だかーらー、うみぃー」
……ダメだ。
住所が分かるもの……と思ったけど、スマホ以外に荷物らしき物も持ってない。
スマホのロックも番号か……指紋認証なら、寝てても解除出来たのに。
とりあえずウチに連れてくか?
オレはさっさと帰りたいんだってば。
「オネーサン、とりあえず行くっスよ、こんなトコで寝てたら死ぬし」
「ん〜……死んでも、いいよ〜……」
そう言ったきり、寝てしまった。
ヤケ酒だったんだろうか。
転がった空き缶をゴミ箱に投げ入れて、オネーサンの身体を抱き上げた。
見た目よりも、ずしりと重い。
それほど太ってるようには見えないから、鍛えてるヒトなんだろうか。
どっちにしろ、他人に迷惑掛けるなんてロクなモンじゃない。
目が覚めたら、タクシーでさっさと帰って貰おう。
部屋に入るなり、床に転がしておいた。
一応、風邪引かれても嫌だから薄手のブランケットだけ掛けて。
冷えた身体を温めようと、カフェオレを淹れてひとくち。
あー、みわに会いたい。