第78章 交錯
「お疲れさまっしたー!」
今日1日の予定を全て消化し終えて、ロッカールームのベンチに座り込んだ。
大きく息を吸い込んでゆっくり吐くと、酸素と一緒に疲れまで身体中を巡っていくみたいだ。
今日は朝からバスケ雑誌の取材に、女性誌のインタビュー、撮影。
それが終わってようやく夕方から練習に参加した。
終わってみたら身体がダルくて。
ここ連日、テレビだ雑誌だと引っ張りだこだからだろうか。
でも、会える。
来週のバレンタインデーには、みわと少しだけ会う約束をしてる。
マジで、そこで癒されるしか手はない。
オレが疲れてるからと、毎晩の電話も時間が短くなったり、時々しなかったりと、完全なるみわ不足。
オレの身体を気遣ってくれるのは本当に嬉しいけど、みわ成分が無くなると枯れてしまうというのも分かって欲しい。
「黄瀬、片付けはいいからさっさと帰れ」
というあの笠松センパイの言葉は、多分オレの事を心配してのものだろう。
ぶっきらぼうな物言いでも、チームメイトの事はちゃんと見てくれているあのヒトらしい。
特別扱いされたくないから、いつもはハイハイ言う事は聞かないけど……今日はお言葉に甘えさせて貰ってしまった。
汗をかいた練習着だけ着替えて、ウィンドブレーカーを羽織った。
シャワー室に行く元気もない。
もう今日は家に帰ろう。
歩みがどうにも遅い。
早く帰らなきゃと思っても、エンジンがかかるような事もないから、足は重いままだ。
メシ、何にしよっかな……
あ、その前に洗濯物片付けねーと……
いや、風呂に入るのが先か……?
……
大学から家までは徒歩ですぐだ。
ほんの数分……なんだけど、家に帰ってからの事を考えたら、足がピタリと止まってしまった。
目の前には公園。
低い滑り台とブランコがあるだけの、小さな公園だ。
昼間は、ようやく歩き始めたくらいの子どもとお母さんが一緒に遊んでいる事が多い。
フラッと足が向いて、ブランコに座った。
ギィ、と軋む音がココロまで軋ませる。
……みわの作ったメシ、食いたいな。
「……あー、早くオトナになりてー……」
ぽつりと空に向けて漏らした言葉。
なのに、背後からクスクスと笑い声が返ってきた。