第78章 交錯
『とりあえず、さっき君が言った返事は聞かなかった事にしておくよ。
決めるのは2月いっぱいまででいい。動くのは4月からだ。もしキミがやらないとしても他にアテがあるから、責任を感じる事はない。
年末年始もあるし、早めに連絡しようと思ったんだ。ゆっくり考えてくれ』
私が心配していた事を一息で説明されて、何も言えなくなってしまった。
ライバル校での、トレーナー補佐。
インカレ優勝に向けて。
つまり、
涼太と敵同士になるということ。
涼太を応援している。
インカレだって、優勝して欲しい。
でも……
……こんな状態で補佐をして、身が入るんだろうか。
本当に、大阪の学校のチーム優勝のために働けるんだろうか。
どうしたら、いいんだろう。
集中して勉強しようと、広げてあったテキストが真っ白に見える。
どうしたら、いいんだろう。
……お茶を飲んで、ちょっと落ち着こう。
そう思って手を伸ばしたけれど、自分でも気が付かなかった手の震えが、カップを倒してしまった。
「あっ」
慌てて台所へ布巾を取りに走る。
お茶を吸い取ると、また急いで台所へ戻った。
どうしたら、いいんだろう。
……涼太に、相談してみようか。
……ううん、だめだめ。
自分のことだもん、彼の手を煩わせることじゃない。
それに、こんな話を聞いて、迷っていると知ったら気分を悪くしてしまうかもしれない。
きちんとお断りして、涼太の応援に集中すべきなんだろう。
だって、涼太が笠松先輩達と頂点を狙えるのは、今年が最後のチャンス。
応援するどころか彼らの邪魔の手伝いをするなんて……
だめ、なんだか頭がごちゃごちゃして考えられない。
どうしよう。
どうしたらいいんだろう。
どんな選択肢があるんだろう。
いくら考えても、明るい選択肢が出てこない。
……まずは、落ち着かなきゃ。
それから、ゆっくり考えよう。
おばあちゃんが以前から大切に使っている急須に、ゆっくりとお湯を注いだ。