第78章 交錯
「まさか早川に……」
「まだ言ってるんスか、森山センパイ」
森山センパイは、早川センパイに彼女が出来てた事が相当ショックだったみたいだ。
鍋もつつかずに、うなだれている。
その間に肉がどんどん減ってるけど、いいんスか?
と思いつつも、肉をぱくり。ウマい。
早川センパイって包容力あるし、ら行は聞き取れないけど優しいし、背も高いし、結構モテそうだなとは思ってたけど……。
「俺にも運命の出会いがあるはずだ。
俺は、もっと宝石の知識を身に付ける……!」
また森山センパイはおかしな方向にいってるけど、もはやツッコミ役がいない。
笠松センパイは小堀センパイと中村センパイと3人でバスケの話に花を咲かせてる。
時々聞こえてくる、インカレという単語。
インカレか……春にはオレは2年、笠松センパイ達は4年、最後の年だ。
今のチームで全国制覇を狙う、最後のチャンス。
「今年はいけるぜ。全国制覇」
笠松センパイが力強く握り拳を作ると、それを目にした森山センパイが近寄ってきた。
「今年はどこが優勝候補なんだ?」
森山センパイは大学ではバスケをしていない。
時々皆で集まってやる事もあるみたいだけど、流石にどこが強豪かとかの知識はないみたいだ。
「そうだな、今年はウチと、大阪の学校と、群馬の学校の三つ巴になるんじゃないかって言われてる。元誠凛の木吉がいるチームは、エースの故障で苦しんでるみたいだしな。どこも、人材不足で困ってるみてえだ」
「笠松ん所は黄瀬も小堀もいるんだから楽勝だろう」
「カンタンに言いますね、森山センパイ……ま、優勝するつもりっスけど」
「当たり前だろ」
後頭部にバシッと飛んでくる笠松センパイの平手打ち。
「いったぁ〜! なんで殴るんスか!」
「足はもういいんだろうな」
高校1年の時、オーバーワークで故障した足。
最後までセンパイ達と走りきれなかった悔しさは、今でもオレの中にある。
「……万全っス。今度は死ぬまで走るっスよ」
そして勝利を、その手に。