第78章 交錯
「で、ふざけてねーで、神崎はどうしたんだよ。身体壊してたりしないよな?」
「かっ、笠松センパイ、抉ってくるっスね……お祖母さんがインフルになっちゃったんスよ」
「そうか……そりゃ大変だな。俺が捻挫した時、散々世話になったから礼を言わなきゃと思ってたんだがな」
女のコが苦手な笠松センパイでも、流石に毎日一緒に過ごしたみわには抵抗感は薄いようで。
「また試合の応援に来てくれるっスよ。そん時にでも」
「ああ」
次、いつ会えるかな。
元々シーズンオフで少し余裕がある時期なのに……全日本云々でなんかバタバタしそうだ。
「で、黄瀬。お前神崎とはいつ結婚するんだよ。お前らなら学生結婚もアリかななんて思ってたんだが」
「森山センパイ、まずはご自分の心配して下さいっス……」
「心配するな、抜かりはない! 女性の気持ちが分かるようになるために、バイト先を天然石アクセサリーショップに変えた!
客の大半は美しいお姉さん達だ」
キラリッと輝くシャープな目もと。
マジで森山センパイ、話さなきゃモテると思うんスけど……。
「そ、そうスか……まああの、こっちは一応結婚も考えてるんスけど、まだ早いかなって。
オレがちゃんと経済的にも自立してからかなって」
「オマエがそんな風に謙虚に考えてるとは、意外すぎて雪が降りそうだな」
「笠松センパイ! 言い方!」
「この中で彼女持ちは黄瀬だけか……」
そう寂しそうに森山センパイが呟いたと思ったら、早川センパイのスマホが鳴った。
「あっ、すんません! もしもし、ああ。ん、大丈夫か? 迎えに行こうか。……分かった、じゃあそこに居(ろ)よ、動くなよ」
普段とはだいぶ違う、抑えた音量での会話。
早川センパイは通話を終えると、申し訳なさそうに言った。
「すみません、彼女が怪我して立往生して(る)みたいで……ちょっと、迎えに行って来てもいいですか。家まで送った(ら)、すぐ戻ってく(る)っす」
「は、早川……!」
男だらけの狭いワンルームに、森山センパイの掠れるような叫びが溶けて消えていった。