第77章 共栄
「それじゃあ、また大晦日に」
「うん、……また、ね」
マンションの中も外もあんまりヒトがいなくて、なんとなく年末が近いんだなって、独特の空気だ。
頭上には雲ひとつない青空が広がっていて、風もないからかあったかく感じる。
空の色が、青い。
夏の青さとはまた違う、淡い色合い。
夏空が青峰っち……いや、笠松センパイか?
冬空は黒子っちみたいな?
そんな事を考えながらも、オレたちは車を停めてあったコインパーキングで、繋いだ手を離せずにいた。
「精算して来なきゃっスね」
「あ、私小銭あるよ」
「ん〜と」
精算機で手順を確認してると、どうやら支払いしてから数分すると車止めのバーがまた上がってしまうらしい。
「お金払ったら、急いで駐車場出なきゃなんだね」
「……そうっスね」
結局そのままお金を払わず、オレたちは手を繋いだまま無言で車まで戻った。
「……ふふ、これじゃ帰れないよね。ごめんなさい、余裕持ってるとはいえ、これから練習なのに」
ああ、またこの顔。
またこの顔をさせてしまってる。
行かないで、行かないで、練習なんかサボってよ、私との時間とどっちが大事なのって泣きついてワガママ言って欲しい。
そんな、物分かりのいいオトナみたいな顔をしないで。
「みわ、風邪引かないでね」
「うん……涼太も、練習の後、冷やしちゃだめだよ」
このまま連れ去ってしまいたい。
ずっと隣に居て。
……ずっと、そばにいて。
いや、ダメだ。
みわだって同じ気持ち。
もう少しのガマン。
今は、お互いやるべき事を全力で。
「じゃ……行くっスわ」
「うん……」
精算を終えて、運転席に乗り込む。
隣にみわは居ない。
窓を開けると、笑顔のみわ。
「またね、涼太」
「うん、またね」
色白のみわの鼻が赤くなって……ぽろり、涙が零れた。
「ごめんなさい、我慢してたのに……りょうた、きをつけてね」
「みわ」
顔をくしゃくしゃにして泣くみわを引き寄せて、そっとキスをした。
それは少し、しょっぱかった。
これが、19歳のクリスマスの話。