第77章 共栄
「ずっと聞こうと思ってたんだけどさ、あんたってみわの事、いつから好きなの? どこが好きなの?」
絶妙な焼き加減のトーストをさくりとかじる音が、微妙なふたりの間に響く。
オレの目の前に置かれたのは、サラダ。
ノンオイルの和風ドレッシングがかけられた、生野菜サラダ。
うん、美味いけど。
美味いんだけどね。
牛乳と力を合わせてオレの身体を冷やしに来る。
「んー……こういう風に言うと怒るかもしんないっスけど……正直、最初は同情だった、と思う」
「……同情?」
あきサンにこう聞かれてちゃんと話すのは、初めてか。
「……うん、多分それが一番近い表現だと思うっス。
オレには想像出来ないような、なんかツライ思いしてんのかなって。大丈夫かなこのコって、そんな感じ。それが気になったきっかけ」
懐かしいな。
高校時代。
みわの制服姿、可愛いんだよなぁ。
「……でも、みわは強かった。一所懸命に踏ん張って、戦ってた。多分あれを見た時、もう惚れてたんじゃないスかね」
あの、ピンと伸びた背すじ。
グッと力を入れて、真っ直ぐ前を見つめるあの瞳。
今でもハッキリ覚えてる、あの美しい立ち姿。
「……ふうん」
あきサンは、表情ひとつ変えず。
意外にも、あきサンはオレを非難しなかった。
またすげー怒られるかと思ったのに。
「なんか、運命的なヒトメボレ……とかじゃなくて、怒ってるっスか?」
「んーん、逆。これで、一目惚れとか、すっとぼけた事ぬかしてたらぶん殴ろうかと思ってた」
「暴力反対っス……」
それは、ない。
オレは、見た目で判断されるのが大嫌いだ。
だから、ヒトを判断する時も、絶対に見てくれでは判断しない。
ま、可愛いに越した事ないけど。
そして、みわは可愛いけど。
「あんたさ、日本を代表する選手になるんでしょ? みわを守れる自信、あんの?」
あきサンの目が、一層鋭いものに変わった。