第77章 共栄
「でもね、涼太……私、今までだって自分のやりたいように、好きなようにさせて貰ってきたよ。おばあちゃんのお陰でお金に困った事もないし、食事にも住む場所に困った事もないし。感謝しかないよ。それなのに、これからも我儘言うなんて……」
みわの"好きなように生きて来た"の基準が、ヒトとあまりにも違いすぎて、胸がキリキリと痛い。
あんな風に犯され続けて、自分の気持ちを押し殺したまま誰にも助けを求められずに、ココロが死んだまま生きてきたのに。
食事にも住む場所にも困った事はない?
大多数の人間はね、それがフツーなんスよ。
当たり前の事に感謝出来るみわの事は大好きだけど、そんなノンキな事を言ってる場合じゃなくて。
みわには、もっと色鮮やかな世界を見て欲しい。
黒ずんだ絶望の世界じゃなくて、世界にはこんなに色があるんだって気付くような、キラキラした世界。
オレと、並んで一緒に見たい。
見せてあげたい。
だから、まずはみわのココロのリハビリから。
「みわの言い分も分かったから、じゃあこうするのはどうっスか?
ちっちゃな事から始めんの。
イチゴ味とメロン味で迷ったら、今日はイチゴ味が食べたいかなって、そういう選び方」
「ふふ、今でもそうやって選んでるよ?」
ころころと笑う姿。
大好きな表情。
でもね、違うんスよ。
みわは、無意識に人の顔色をうかがってる。
この選択肢で誰かから不満は出ないか、誰かを傷付ける事はないか。
いやモチロンそういうのを考えられるのは彼女のいいトコだし、そういう思考も必要だと思うけど……
それが先頭に来ちゃうのは、違うと思う。
自分の欲を完全に抑え込んでするものとは違う。
だから始めて欲しい。
"少しだけ、ワガママになること"
みわが、この先の大きな選択で、迷わず自分の選びたい道を選び取れるように。
みわが、幸せになれるように。