第77章 共栄
「ゴメンね、変なコト聞いて……でも、嬉しいっスわ」
「涼、太……?」
少しだけ……ほんの少しだけ、気のせいかもしれないけれど、涼太……声が震えてる……?
そっと頬に触れたけど、それは定かではなくて。
探るように指を動かそうとしたのに、あっという間に大きな手に捕まってしまった。
そのまま、逆にそっと指先にキスを落とされて。
「オレさ、何かを"欲しい"って思ったこと、なかったんスよ。いや、そう言うとちょっと違うかな……なんて言うか、心の底から欲しいモノってなくてさ」
「そう……なの?」
涼太が浮かべた微笑みは、少し諦めたような、寂しい笑顔だ。
「小さい頃から見てくれは良かったし、人当たりも良かったから、周りのオトナ達はいつもオレに甘かった。欲しいかもって思ったモノはさ、大した苦労もせずに貰えたから、執着もなくて。結局すぐ飽きちゃうんス」
ありがたみってモンがないんスよね、と笑った顔はどこか儚げで、そのまま溶けて消えちゃいそうで、抱きしめたくなる。
「新しい事を始めても、すぐに出来ちゃうんスわ。だからね、つまんないの。熱くなるなんて、無理。だって、誰もオレには敵わなくなっちゃうから」
なんでも持ってるからこそ感じる、虚無感。
私には到底分からない感覚だけれど……涼太の苦しみが少しでも和らぐなら、その端整な唇からぽろりと零れ出るのを受け止めてあげたくて、黙って聞いていた。
「それが、海常というチームに出逢って、勝ちたいって心から思う事が出来て。
チームワークってモンが、少しずつ分かって」
……違う。
これは、苦しみをこぼしてるんじゃない。
涼太の瞳はもう、輝いてる。
「みわと出逢って、こんなにも全部欲しいって思ったこと、なくてさ……オレも、どーしたらいいのか時々分からなくなるんスよ」
……分かる、気がする。
涼太が欲しくて欲しくて仕方がない時のあの気持ち。
喉の奥が焼け付くような渇き。
お腹の奥から込み上げてくる、焦りのようなもの。
それが頭の中をグッチャグチャにかき回して、こころが乱れるあの瞬間。