第77章 共栄
唇が、笑っちゃうくらいに震えてるのがわかる。
目の際が熱い。
視界が、滲んでいく。
私また、泣いてる。
溢れてきて、止まらない。
なんでこんなに、涙が止まらないんだろう。
嬉しい? 悲しい?
分かんなくて、でもどうしようもなくて。
そっと触れるだけのキスは、ゆっくりと離れていく。
「……ね、みわ。
オレとするキス、好き?」
「……っ」
この、時々見せる妖艶さは、どこから来てるんだろう。
格好良かったり、可愛かったり、このひとは幾つの顔を持ってるんだろう。
恥ずかしい、けど気持ちは素直に伝えたい。
少し鼻が詰まりながら、精一杯のお返事。
「……うん」
好き。
涼太とするキス、好き。
視界が涼太でいっぱいになって、彼の熱しか感じられなくなる、優しいキスが好き。
……ううん、熱く激しいのも……好き、だけど。
「セックスは?」
「……え?」
自分的にかなり勇気を振り絞ってさっきの返事をしたのに、その遥か上を行く質問をされて。
「えっ……と……」
「オレ、みわのコトちゃんと気持ち良くしてあげられてる?」
悪戯をする子どものような表情の裏にチラリと見えた、心配そうな顔。
きっとこれは、ふざけたり、からかったりしようとして言ってるんじゃない。
私もちゃんと、真剣に返さなきゃ。
……返さなきゃ、なんだけれど。
頭の中を、彼に抱かれている最中の映像ばかりがよぎって、恥ずかしくて全く言葉が出て来ない。
あの指で愛撫される、あの熱で貫かれる快感。
身体は溶けそうなほどに熱くなって、こころはぽかぽかあったかくなって。
あの幸せな気持ちを、どう表現したら伝わる?
「……みわ?」
「あ、の……上手く、言えないんだけど……すっごく、気持ちいい……し、あの……涼太と、するの……好き、だよ」
脳みその中にいるもうひとりの自分が、"0点"と書かれた札を掲げている。
確かに、今の返答はあまりにも酷い。
歯切れの悪さに加え、舌がもつれて。
それでも、涼太が私に向けてくれた微笑みは、木漏れ日のようだった。