第77章 共栄
「涼太っ、起きてたの……!? ね、寝てるかと」
「いや、みわのマッサージ、すげー眠くなるっスけど……」
寝てしまったものと思って、気が抜けてた。
だから、あっという間に布団に押し倒されるまで、なんの抵抗も出来なかった。
琥珀色の双眸に真っ直ぐ見つめられて、金縛りにあったみたいに身動きが取れない。
彼のサラサラな髪の毛先が、目の前で右、左と踊って。
また、魔法をかけられたみたいだ。
「ね、ねえ」
咄嗟に言葉が出て来なくて、やっと出た声は自分でも分かる位に掠れてた。
それを聞いているのかいないのか、ゆっくりとどんどん距離を縮めてくる顔を直視出来なくて、思わず顔をそらす。
唇が落とされたのは……掴まれている手首だった。
「涼太……?」
「みわ、愛してる」
「え……」
いつも、行為の途中、理性が吹っ飛んだ状態で囁かれる言葉を突然優しく手渡されて、頭はパニック状態。
「あ、っ」
唇はそのまま、肘に向かって滑っていく。
マッサージする為に袖をまくっていたから、何の隔たりもなく、彼の熱を感じる。
こんな所も性感帯なのかと思う位に、気持ちいい。
「みわ……ありがと」
さっきの言葉にもまだ返事出来ていないのに、次のボールを投げられて更に混乱は進む。
涼太は、そんな事気にしてないとでも言うように、その滑らかな唇で愛撫を続けていく。
「みわ、オレに全部くれて、ありがとう」
なに……なに?
全部?
「……私、涼太にあげられるものなんて、なんにも、ないよ」
なんにもない。
私には、なんにもないんだ。
涼太みたいなひとの相手が私なんかでいいのかって、いつまで経っても答えが出ない。
「そんな事ないっスよ……オレ、はじめてのものいっぱい貰ったから」
「はじめて……?」
それこそ、男性が……涼太が喜ぶような"はじめて"は何もあげられていない。
犯され続けた身体は、あの事件の時にも言われた……薄汚れた中古品だ。
そんな事考えても、過去には戻れないのに。
後悔したって、仕方ないのに……。