第77章 共栄
ミルクを入れたコーヒーが、疲れを溶かしてくれるみたいだ。
更に、ドラマを見ながら少しだけぶつかっている肩が、柄にもなく胸をドキドキさせる。
姉ちゃんの好きなドラマは、ありきたりの設定っていうか、まあ恋愛モノの王道って感じの作りで、間違いなくハッピーエンドなんだろう。
放送時間もあとわずか。
画面は確執があった両親との再会シーン。
ずっと嫌われていたと思っていたヒロインは、泣きながら両親と抱き合う。
なんか、ちょっとみわと重なる。
みわは、画面を凝視してるようだ。
頭はピクリとも動かない。
お茶も飲まず、集中して。
場面は変わり、ふたりがようやく結ばれるシーン。
別にAVみたいに激しい描写があるわけじゃないけど、親なんかがいると非常に気まずいラブシーン。
ベッドの中で、愛し合うふたり。
彼女は、初めてを大好きな人に捧げる事が出来て、泣きながら彼に抱かれている。
男の方は、俺が最初で最後の男だなんて言って。
こういう撮影って、時間かかんのかな……男は前貼りしてんのかななんて、全く関係ない事を考えながら見てたんだけど。
ふとなんとなく、みわの顔を覗き見た。
気付かれないように、そっと。
恥ずかしがってたら、からかっちゃおうかな、なんて。
……そう、思ったのに。
みわ……なんてカオ、してんスか……
そこにあったのは、みわの……悲しそうな顔だった。
無意識に、画面の中の彼女と自分を重ね合わせてしまっているんだろうか。
"大好きな人に初めてを捧げる事が出来て幸せ"
ありがちな、ドラマでの甘いセリフだ。
オレは、みわの大切な"はじめて"を貰ったと思ってるけど。
でも……みわにとってはきっと……。
みわはまた、オレに申し訳ないって、そう思ってるんだろう。
オレ、なんでドラマの話なんかしたんだろう。
みわがそんなに傷付くなんて、思ってなかった。
ううん、みわの傷の深さを分かってるつもりで、全然分かってなかった。
過去は、いつまで彼女を傷付ければ気が済むんだ。
辛い思いなんて、させたくないのに。
ずっと笑顔にさせてあげたいのに。