第77章 共栄
「あ〜、ホント寒いっス」
「寒かったね」
自宅の玄関扉を開けると、暖かい空気がひゅるりと外へ逃げて行った。
機密性の高さからだろうか、マンションはやっぱりあったかい気がする。
おばあちゃんの家が寒く感じるのは、築年数の関係かもしれないけど……。
「あったかい飲み物淹れるね。部屋に行っててくれる?」
「ん、アリガト」
涼太を私の部屋へ案内して、私はキッチンへ。
お気に入りの緑茶と、お茶菓子をトレーに。
……緑茶で、いいかな?
涼太、コーヒーの方がいいかな。
運転して疲れてるかもしれないし……
そう考え直して、コーヒーと小さなピッチャーにミルクを注いで、トレーに乗せた。
「あ、みわ、テレビ買ったんスね」
部屋では、小さな液晶テレビの前で座ってる涼太の姿。
私の部屋には殆ど物がない。
大きなクロゼットが付いている部屋だから、タンスの類もない。
勉強机と布団、ミニテーブルの上にテレビが乗っているだけだ。
色気、ゼロ。
「あ、それね、この間あきがくれたんだ。ご実家に、使ってないのがあったからって」
「へえ。点けていいスか?」
「うん」
天気予報が映し出された。
週間予報、この先1週間は、ずっと晴れ。
年末年始も良い天気で過ごせそう。
「グラス、見よっか?」
「え?」
それを口実に引き留めた癖に、一瞬涼太が何を言ってるのか分からなくてフリーズしてしまった。
「……あ、うん、グラスね、見よう見よう」
涼太は肩を震わせて笑ってる。
私の手の中には、涼太が作ってくれたグラス。
涼太の手の中には、私が作ったもの。
「あ、すげえ。バスケットボールが描いてある。あ、コートもゴールも」
一足先に箱を開けた涼太が、私の作ったグラスをまじまじと見つめている。
「あ、おまけにこれ、ゴールデンレトリバーっスよね? みわ、絵上手いんスね」
バスケに関するイラストだけだとちょっと寂しくて、見よう見まねで犬も描く事にした。
ゴールデンレトリバー、涼太みたいで可愛いから……。
「THANK YOUって入ってて、ハート模様も入ってる。ん〜、みわの愛が篭ってるっスわ」
なんだかそう言われると凄く恥ずかしくて、慌てて涼太が作ってくれたグラスを取り出した。