第77章 共栄
宿の方々に見送られて、太陽を浴びて輝く木々を見渡しながら、川のせせらぎをBGMに車に乗り込んだ。
ドアを閉めた途端に外界の音が遮断されて、涼太が言っていた『動く密室』というのを再認識する。
「涼太、あの……」
「ん? どしたんスか?」
結局、涼太はどれだけ言ってもお金を受け取ってはくれなくて。
……お言葉に甘えてしまった。
「…………ありがとう。素敵なプレゼント、本当に嬉しい」
涼太の気持ち、ちゃんと受け取ろう。
それで、別のかたちでお返ししよう。
そうこころに決めながら。
「あの、でも……私、一緒に居られるだけで、幸せ……だよ」
大切なお金を、私のためなんかに使わせてしまうのは、本当に心苦しい。
向けてくれた涼太の笑顔が眩しくて、愛しくて。
今朝まであんなに激しく愛し合ったのに、また身体の奥底から湧き上がってくる、この気持ちはなんだろう。
彼といると、説明出来ない感情ばかり。
「みわ、シートベルトやってあげるっスよ」
「大丈夫だよ、もう何度もやったか……ら、ん」
覆い被さるように視界を塞いだ涼太からのキスは、それだけで溶けてしまいそうな程に甘くて……優しかった。
その後、車はとある美術館へ。
ヴェネチアングラスや現代ガラスの展示がある美術館で、恐らく涼太は昨夜、このイルミネーションを見に行こうとしてくれてたんだろう。
涼太のこころのように、美しく透き通ったガラスや、色とりどりのガラスたちの展示スペースが終わると、工房のような建物が見えて来た。
「みわ、ここでモノづくり体験が出来るんだってさ。やってかない?」
「やりたい!」
入ったのは、サンドブラスト体験工房だった。
サンドブラストとは、ガラスに研磨材の砂を吹きかけて、表面をスリガラスに削る技法の事らしい。
世界にひとつだけのグラス。
私たちは、お互いに贈るグラスを作る事にした。