第77章 共栄
ドキ、ドキ。
涼太と出会って、初めて意識した時のような胸の鼓動。
何年経っても、慣れる事はなくて。
いっつもドキドキしてる。
さっき……ベッドで目が覚めて、隣に涼太がいない事に気が付いた時の、あの気持ち。
思わず涼太が寝ていた部分に触れて、どの位冷めてしまっているかを確認して、まだ残る温かみに、少しホッとした。
脱衣所に、彼の脱いだ下着とバスローブが置いてあって、また安堵して。
涼太がいないと、私はこんなにも弱い。
きっとこれから、私たちの間には未だかつてない距離が出来るんだろう。
大丈夫かな。
私……大丈夫かな。
……大丈夫。
頑張れる。
だから涼太……ふたりの時間が、欲しいな。
今だけでいいから、ふたりだけの、時間。
朝日が目の中に残像を残したように、涼太の輝きも、ずっとずっと残ればいいのに。
目を閉じても、焼き付くように。
「……このままだとまた逆上せちゃいそうっスね」
そう言う涼太に促されて、浴槽を出た。
ぽかぽかと温まったはずの身体に叩きつけるような冷気が、あっという間に体温を奪っていく。
急いで脱衣所へと駆け込んだ。
「ふぃーっ、ここに戻るまでが寒いんスよね」
「うん、でもまだぽかぽかしてるよ」
温泉効果か、足の先から全身へ熱が巡っていくよう。
でも、油断しないようにバスタオルで身体の水分を拭い、バスローブを羽織ろうとして、腕が涼太にぶつかってしまった。
「あ、ごめんね」
「ん」
逞しい、身体。
身体の出来ていない高校生のそれとは、やっぱりワンランク違う。
この身体に……ばかばか、何妄想してるの。
……
でも……
頭の中がごちゃごちゃしたまま、涼太の腰に抱き着いた。
「みわ?」
なんだろう、この気持ち。
なんだろう……
勝手に抱き着いた腕を解き、涼太を見上げる。
濡れた前髪から覗くのは、琥珀色の宝石。
説明出来ない感情に支配されて、その下に存在する、薄く柔らかい唇を塞いだ。