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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第77章 共栄



「もーさ……」

涼太は下を向いて、柔らかい髪をくしゃくしゃと乱している。

やっぱり、まずかったよね。
彼はモデルだ。
もし、街中を歩いていてダサいなんて思われたら、仕事にも関わる。

ああ、絶対に手を出してはならない領域だった! ばか!
1ヶ月半前の私! 早く気付いて!!

「みわは……オレをどうしたいんスか?」

う、お、怒ってる?
どうしたいって……

「あの、ダサくしたい訳じゃないの。困らせるつもりもなくて、あの、そんなつもりじゃ無かったの……!」

悪気は無かったんだよ。

涼太に似合う形を考えてデザインを調べる時間が、
肌に触れる事を考えて毛糸を選ぶ時間が、
涼太の事を考えて編み棒を動かす時間が、
幸せだった。

涼太にあげるプレゼントというよりも、私が彼から貰ってしまったんだ。幸せな時間を。

涼太は、手を止めると顔を上げて……笑んだ。

「オレ、みわに言いたい事いっぱいあんのに、全然言葉が出て来ないんスわ」

なんて優しい表情。
とろけるような、あまいあまい……ふたりきりの時にしか見せない、外では絶対に見せない、極上の笑顔。

一瞬で、言葉も思考も奪われる。

「あ、の……」

「ありがとう」

その口から紡がれた5文字が私の耳に届くまで、少し時間がかかってしまった。

いちばんシンプルで、あったかい言葉。
ひと と ひとを繋ぐ言葉。

「みわ、ありがとう」

嬉しそうに首に巻いてくれる彼の優しさが、じんと胸に沁みる。
狼狽して、不安に脈打っていた心臓も、ゆっくりと落ち着きを取り戻していくようで。

「……本当に、無理して使わないでね」

「使うっスよ! これすっげえ気に入ったし!」

ううだめだ、終わりの見えないやり取り。
彼はどこまでも優しいひとなのだ。

「車ん中で寝ちゃったのも、のぼせちゃったのも、疲れてたせい……こういう理由があったんスね」

……それだって、隠してたのに……。
自分の詰めの甘さにぐうの音も出ない。

そのまま、ふわりと大きな胸の中に抱き込まれた。



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