第77章 共栄
気分はもう、悪くない。
涼太のおかげ。
「みわ、起き上がっちゃダメっスよ」
「ううん、もう大丈夫だよ」
涼太が冷蔵庫の中を見ている間に、むくりと起き上がって布団を出ようとして、驚いた。
部屋に入った時は布団が敷いてあるだけなのかと思ったけれど、僅かに段差がある。ローベッドだったんだ。
気付かないって、どれだけ動揺してたんだろう、私。
そうだよね、布団だと、宿の人が敷きに来なくてはならない。
でもそれは、客室露天風呂付きで、お部屋でゆったり出来る部屋のコンセプトにはそぐわないし……。
そんな悠長な事を考えながら、テーブルへと移動した。
「寝てなきゃダメだってば!」
「もう何ともないよ」
涼太が慌てて私を捕まえに来るけど……。
私は座椅子に腰掛けて、テーブルの上に並んだ腕時計を手に取る。
「もー、ホントに大丈夫なんスか? ちょっとでも気分悪くなったらすぐ横になるんスよ」
「うん、わかった」
掌の中に、小さな星空が広がっている。
涼太とお揃い。
嬉しい。本当に嬉しい……。
……あんな風に逆上せるなんて、
嬉しい事ばかりで浮かれてるんだな、私。
時計の針は無情にも動きを止めず、もう間も無くクリスマス・イヴが終わろうとしている。
慌てて、鞄の中から用意していた包みをふたつ、取り出した。
「涼太、メリークリスマス」
「え、何? オレに? ありがとう! 開けていいっスか?」
気を遣わなくていいのに、と言いながらいそいそと包みを開ける姿が可愛らしくて。
「わ、クッキー! すげえ、焼いたんスか?」
「クリスマス柄にしたんだけど、ちょっと固いの、ごめんね」
試作に試作を重ねた結果だ。
……味は美味しかった。でもちょっと歯ごたえがありすぎる出来……。
「ん、ウマイ。みわ、お菓子作りは苦手って言うけど、作るの上手いっスよね」
バッキャバッキャと、クッキーを食べてる音とは思えない音が響き渡る。
「……精進します……」
「もう一個も、開けていい?」
「……う、なんかあんなすごい物貰っちゃって、私はこんなんで、本当に申し訳ないんだけれど……」
バイトもしてる。
お金が無いわけじゃない。
でも、プレゼント探しはしてみたものの、どれもピンとこなくて……