第77章 共栄
身体は、火照ったまま。
私達の車は少し走った後にとある旅館へと辿り着いた。
事前に連絡してあったのか、闇の中に紛れない存在感の立派な建物にオロオロしている内に、気が付けばフロントでの手続きも終わっていた。
涼太の手際が良すぎて、さっきから全くついていけてない。
というよりも、今日は終始彼のペースだ。
少しの違和感を抱きつつも、案内され辿り着いたお部屋は、……なんて表現したらいいんだろう。
広い。
奥行きのある間取りの部屋は、既に布団が敷いてある間とは別に、ゆったりとお食事やお茶が楽しめるであろう茶室のような空間まである。
調度品は品の良い和製で、修学旅行で泊まった旅館とは質が違うのが一目瞭然。
新鮮な畳の匂いがする。
ここ、1泊に一体いくらかかるのか。
持って来ているだけでは足りない気がする。
明日、チェックアウトする前にお金を下ろせる所、あるかな……。
そんな事を今考えても仕方ないと、部屋に足を踏み入れると、テーブルには、沢山の果物が用意されていた。
な、なんて豪華な……。
「お、美味そうっスね。お風呂入ってからにする?」
涼太は鞄を隅に置くと、どかりと座って背伸びをしている。
「ん〜、やっぱ慣れない道は緊張するっス」
そうだ。彼は今日、1日運転している。
きっと、同じ姿勢と長時間の集中で、身体が凝り固まっているだろう。
お風呂に入ったら、マッサージとストレッチを念入りにした方がいい。
……と、一瞬で切り替わってしまった思考に一旦蓋をして、巻き戻す。
「涼太、なんでこんなに高級な所……お金、大変なのにどうして」
「まあまあ、折角のクリスマスだしさ。みわとここで過ごしたいなと思ったんスよ」
……だから、その微笑みは、ずるい。
「おいで」
ふんわり焼き上がったシフォンケーキみたいな、甘くてとろけるような囁きに、抗う術などあるわけもなく。
ゆるりと抱きしめられて、今日何度目かの……キスを、した。