第77章 共栄
「わ……あ!」
目の前に広がったのは、まるでこの世のものとは思えない風景。
恐らく芦ノ湖であろう湖面に映るのは、鳥居。
どこの神社だろうか、その朱がぼんやりと水面に伸びているから、夜とは思えない位明るくて、辺りの木々を含めた風景を浮かび上がらせて、幻想的な雰囲気を醸し出している。
そして、頭上には……星。
そのまんま丸ごと、落っこちてきそうな星空。
美しいなんて言葉じゃ表現しきれないほどのその景色に、言葉を失った。
凄い……
こんな綺麗な景色……
「カメラマンさんが教えてくれたんスよ、ここが穴場だって」
確かに、ここに来るまでの道は舗装されているものでもなかったし、知る人ぞ知る、なスポットなのかも。
「みわは星が好きだからさ、見せたかったんスよね」
「……」
何て言えばいいのか、言葉が出て来ない。
このまま、夜空に吸い込まれてしまいそう。
胸がいっぱいになって、言の葉の代わりに温かい水滴が、頬を濡らす。
「……みわは、涙もろいっスね」
そんな事、ないはずなんだけれど。
確かに涼太と一緒にいると、なんだかいつも泣いているみたいだ。
でも本当に、この気持ちは言い表せなくて。
そっと、大好きな指が涙を拭ってくれる。
思わず、その手を捕まえた。
「みわ?」
「……この手、だいすき」
そっと自分の頬に当てた涼太の手は、相変わらずあったかくて。
私の冷たい頬のせいで、冷えたりしないか心配になる。
「涼太、こんな素敵な時間……ありがとう」
「みわ、これからさ、色んな所で一緒に星を見よう。国内かもしんないし、海外かもしんないけど、とにかくいっぱい。
ふたりの想い出、いっぱいつくろ」
ふたりの、想い出。
私のぽっかり空いた、想い出の箱。
今までの人生が殆ど何も残っていない、箱。
そこに、これからは彼との想い出を。
こんな幸せな事、あるのかな。
ぶんぶんと、力いっぱい頷いた。
ゆるりと緩んだ微笑みは、美しい夜景よりも、もっともっと綺麗だった。