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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第77章 共栄


「わ……あ!」

目の前に広がったのは、まるでこの世のものとは思えない風景。

恐らく芦ノ湖であろう湖面に映るのは、鳥居。
どこの神社だろうか、その朱がぼんやりと水面に伸びているから、夜とは思えない位明るくて、辺りの木々を含めた風景を浮かび上がらせて、幻想的な雰囲気を醸し出している。

そして、頭上には……星。

そのまんま丸ごと、落っこちてきそうな星空。

美しいなんて言葉じゃ表現しきれないほどのその景色に、言葉を失った。

凄い……
こんな綺麗な景色……

「カメラマンさんが教えてくれたんスよ、ここが穴場だって」

確かに、ここに来るまでの道は舗装されているものでもなかったし、知る人ぞ知る、なスポットなのかも。

「みわは星が好きだからさ、見せたかったんスよね」

「……」

何て言えばいいのか、言葉が出て来ない。
このまま、夜空に吸い込まれてしまいそう。

胸がいっぱいになって、言の葉の代わりに温かい水滴が、頬を濡らす。

「……みわは、涙もろいっスね」

そんな事、ないはずなんだけれど。
確かに涼太と一緒にいると、なんだかいつも泣いているみたいだ。

でも本当に、この気持ちは言い表せなくて。

そっと、大好きな指が涙を拭ってくれる。
思わず、その手を捕まえた。

「みわ?」

「……この手、だいすき」

そっと自分の頬に当てた涼太の手は、相変わらずあったかくて。
私の冷たい頬のせいで、冷えたりしないか心配になる。

「涼太、こんな素敵な時間……ありがとう」

「みわ、これからさ、色んな所で一緒に星を見よう。国内かもしんないし、海外かもしんないけど、とにかくいっぱい。
ふたりの想い出、いっぱいつくろ」

ふたりの、想い出。
私のぽっかり空いた、想い出の箱。
今までの人生が殆ど何も残っていない、箱。

そこに、これからは彼との想い出を。
こんな幸せな事、あるのかな。

ぶんぶんと、力いっぱい頷いた。

ゆるりと緩んだ微笑みは、美しい夜景よりも、もっともっと綺麗だった。


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