第77章 共栄
のほほんと助手席に座っているだけで、こんな所にまで来れちゃうなんて。
車って、すごい……。
そんなマヌケな感想を胸に秘めてるなんて、とても言えない。
さすがに、この辺りまで来ると気温も都心より低くて、寒い。
遠慮なく吹き付ける風に、ぶるりと身を震わせた。
湖を横目に、涼太と歩いていると鼻を擽るのは香ばしい匂い。
「いい香り……パンかな?」
「そそ。お昼、ここなんスけどいい?」
「うん!」
丸太を重ねたような、ログハウスのような壁のお店。
筆記体で店名が書かれた看板も木製で、少し色褪せてくたびれてて、視覚的にも温かさを感じさせるような外装。
外が寒いからか、お店が暖かそうだからかは分からないけれど、自然と手を繋ぎ、入口へと向かった。
「御予約の黄瀬様、こちらへどうぞ」
ちゃんと予約してあった事を驚く暇もなく、そう言われて通された店内奥、木をそのまま切り出したかのような丸太のテーブルがドドンと鎮座していた。
「こちら、タオルをお使い下さい」
そう言われて渡されたのは2枚のタオル。
スポーツタオルサイズなのかな?
ビニール袋に入ってるから大きさはハッキリ分からない……でも。
「……なんで、タオルのサービス?」
「みわ、こっちこっち」
涼太に手を引かれてテーブルの前まで行くと、テーブルの足元に水が張ってある。
「なに、これ?」
「足湯っスよ」
「足湯!」
なんと、足湯しながらお食事?
ただのベーカリーレストランじゃなかった!
タイツを脱いでお湯に足をつけると、殆ど感覚が無くなってきていたつま先がじんと痺れて、熱が伝わってきた。
「あったかい……」
「みわ、冷え性っスもんね」
その気遣いが、嬉しい。
でも……なんだか、恥ずかしい。
彼には、全部知られてるんだった。
文字通り、全部。
急に、物凄く恥ずかしくなってきた。
今日はずっと涼太にこころを揺らされっぱなしで、ドキドキしっぱなしで、変だ。