第77章 共栄
「ごめんね、みわ。寄り道して予定が狂っちゃって」
車に乗り込むなり、涼太はそう言った。
……予定、狂ってたんだ。
そもそも、涼太に全部お任せしちゃってるから、分からなかったんだけど……。
でも。
「私は全然気にならないよ」
一緒に居るのが楽しいから。
そう思って、素直な気持ちを言ったら、シートベルトを嵌めようとしていた大きな手がピタリと止まり、ベルトを解放して私の頬に触れた。
あ、キス、だ。
そう思って身構えたのに、涼太の唇は、私の鼻筋に触れて、戻っていった。
……なんだ、ビックリした……。
やだ私、期待してた?
あんなに、ダメダメって思ってたのに。
「へへ、アリガト。
んじゃ、出発進行〜。あ、みわ。明日も1日空いてるんスよね?」
「うん、明後日までお休みだよ」
年末、遠方まで帰省したりする必要がない私はギリギリまで働く事が出来る。
その代わりにクリスマスは休みが欲しいという希望を出したら、いつも頑張ってくれているからと、3連休が貰えた。
この3日間は、涼太と過ごす約束をしていて、予定はお任せしちゃっている。
涼太はニコニコと上機嫌でハンドルを握り、車はその彼の気持ちにならうように、次々と違う景色を映し出していった。
「……湖?」
車に乗って、2時間も経ってないと思う。
涼太とあれこれお話していると、時間が経つのは本当にあっという間で。
お昼ご飯にしよっかと連れて来られた、ここは……どうみても、湖。
紅葉のシーズンも終わって寂しくなった木々に囲まれて、ひっそりと、でも存在感を醸しながら佇んでいる。
「そ。芦ノ湖っスよ」
芦ノ湖……
聞いた事がある……ええっと、どこ、どこ……
「って、芦ノ湖って箱根の!?」
神奈川県内とは言え、都市部からは遠く離れた箱根。
温泉が有名で、人気の観光地だという知識くらいは、私にもある。