第77章 共栄
車内の温度が、どんどん上がっていくようだ。
触れ合っている唇から、熱が漏れる。
「みわ……好きだよ」
「っん、ん」
キスの合間に、突然そんなことを言われて。
待って、頭が全然働かないよ。
じわりと、自分の中心から蜜が溢れてくるのが分かる。
唇だけの探り合いが、こんなにも気持ち良くて。
涼太が満足気に上唇を舐める頃には、腰に全く力が入らなくなってしまっていた。
「歩ける? みわ」
「……う、ん」
「車で待っててもいいんスよ?」
「ん、だい、じょうぶ」
普段履き慣れないヒールのうえ、砕けた腰で体重が分散するせいで、身体がぐにゃりと左右に揺れる。
涼太に支えられて向かったのは建物の正面……看板もドアも豪華な造り。
看板には、アルファベットでブランドの名前。
見慣れてないから、咄嗟に読めない。
どこかで見た事のあるロゴのような……?
柱やドアは、まるで絵画のように繊細な花や葉が彫られていて、まるで御伽噺の中にあるお城のようだ。
ショーウインドウに置いてある商品を見ると、キラキラしたものばかり。
……何のお店?
「いらっしゃいませ」
黒スーツを身に纏い、髪を夜会巻きにした赤縁眼鏡の女性店員さんが、こちらを見て微笑み、頭を下げた。
それだけで、ここが普通のお店ではない事をなんとなく察する。
「みわ、ちょっと待ってて」
涼太は、店員さんと何か親しげに話し始める。
ふらり、店内のショーケースをなんとなく覗いていると、店員さんのひとりが話しかけてきてくれた。
「ネックレス、付けて下さってるんですね。彼氏さんからのプレゼントですか? とってもお似合いですよ」
言われてはっと、気が付いた。
今日付けているのは、今年のお誕生日プレゼントに貰った、ネックレス。
以前彼に貰った指輪を通したネックレスは、失くしてしまった騒動もあって、どうしても身に付けるのが怖くてポーチに潜ませてあるんだけど、それを知った涼太が、じゃあ普段つけられるアクセサリーを……なんて言って。
あきが、「貢がせてんね〜」って言ってた。
そうだ、このお店の看板と同じロゴが入ってた。