第77章 共栄
「あ、の……免許、取ったんだね」
こうして運転しているんだから、当たり前なんだけど。
なんか、不思議すぎて。
こうして彼の隣に乗っているのが。
「ああ、前に駅前でチラシ見つけてからずっと気になっててさ。合間合間で通ってたら半年くらいかかっちゃったんスわ」
半年くらい……って事は、涼太のお誕生日に会った時には既に通い始めていたんだろうか。
内緒にしていたのが、彼らしい。
でも……
「……筆記試験、受かったんだね」
「ぶは、そこ!? 超マジメに頑張ったんスよ!」
学校もあって、バスケもバイトもあって、いつそんな時間があったんだろう。
また、無理していたに違いない。
私との時間のために……。
じわり、また目の前が滲んでくる。
良かった、涼太が運転してて。
気付かれずに済む。
どうか、赤信号にならないで。
その願いもむなしく、1つ先の信号は赤。
「心配、いらねえスよ。オレが取りたかった……みわと一緒に居たかっただけだから」
今まででいちばん、優しいキスだった。
景色が、都市部のものへと変わってくる。
嫌な記憶を呼び起こす、同じ形の雑居ビル群。
ヒトに見られる事を意識して造られたファッションビル。
綺麗だけど、冷たくて無機質。
この世界に触れていると、気付かぬ内に、ひとも冷たくなってしまう気がする。
街中を走る車も、高そうなものばかりになってきた。
この車と同じエンブレムの車も、よく見かける。
「……それにしても、外車って。すごい」
「国産車より安く譲って貰えたから、ラッキーだったっス。これで、終電とか電車遅延とか気にしなくていいしさ」
淀みなく運転する姿は、免許取り立てというよりもむしろ、長年乗っている貫禄のようなものさえ感じる。
「普段、乗ってるの?」
「一応車買ってからはなんだかんだ、毎日乗ってるっスよ」
道理で。
持ち前の器用さもあるんだろうけれど、安心して乗っていられるような雰囲気。
「えと……ひとり、じゃないよね?」
「うん、笠松センパイと小堀センパイがよく乗るっス」
知ってる名前の羅列に、ホッとする。
もしかして、同級生の女の子とか……とか思った自分が恥ずかしい。