第77章 共栄
私が窓の外を見た時よりも、ずっとずっと雲が厚くなってる。
気温もグンと下がっているだろう。
なのに、さっきよりもずっとずっとあったかく感じるのは、隣に涼太がいるから。
涼太はやっぱり、私のおひさまだ。
「……あの車?」
「そそ」
停まっている車、ボディカラーは濃い青色。
深みのある、爽やかさも色気もある色だ。
この色を選ぶのは、涼太らしい。
彼に、ぴったりの色。
フロント部に付いているエンブレムは、アルファベットが縦にふたつ並んだもの。
車に詳しくない私でも、これが国産車じゃない事は分かる。
「寒いっしょ、乗って。荷物、後ろに置いとくっスね」
涼太が助手席のドアを開けてくれた。
私が座ると同時に後部座席のドアもささっと開けて、手渡してくれたのは温かいブランケット。
あの、私、まだ全然展開に追い付いて無いんですけれども。
ちらり、後部座席を見ると涼太のコートも置いてある。
そっか、だからあんなに薄着だったのね。
最早、混乱してるのか冷静なのか分からない。
え、これ、車だよね?
車って、なんだっけ。
バス、バスじゃないよね。
タクシーでもない。
そうだ、監督の車に乗った事あるよ。
うん、そうだよ!
……何が、そうなの?
何を考えようとしていたんだっけ?
バタン、その音にビックリして音のする方に目をやると、運転席に座った涼太。
いつもと違う姿に、もう訳がわからない。
「あ、の、あ、あれ、だね、ハンドル、右側に、ついてる、んだね」
「ああ、このメーカーは売る国に合わせて作るってポリシーみたいっスよ。モデル仲間の親父さんがディーラーやっててさ、超安くして貰ったんス」
なんか、涼太が喋ってる。
目の前の光景に、会話が全然入ってこない。
今、彼はなんて言った?
ポリ……ポリ……
「ああ、ポリエチレンは一番汎用的な素材だもんね、分かる分かる」
凄くフランクに返事を返したつもりなのに、涼太はお腹を抱えて笑ってる。
「みわさ、キンチョーしてる?」
「し、して」
ない、って言ったつもりだったのに、言葉が紡げなかった。
涼太の唇が、重なってきたから。