第77章 共栄
こんなに、リビングって広かったっけ。
こんなに、廊下って長かったっけ。
気が付いたら、無我夢中で走っていた。
途中、足がもつれて転びそうになって、1回すてんと転がって、なんか手のひらが痛くて、後ろから黒子くんが私を呼ぶ声がした気がして、それでも走り続けた。
ピンポーン、再度鳴るチャイム。
そう言えば、画面を見てオートロックを解除しただけで応答せずにここまで来てしまった。
でももう、いい。
ドアを開け放った先には──
さらりと靡く黄の髪が、日光の力を借りてキラキラと輝いて、彼の魅力を倍増させている。
眩しすぎて、直視出来ない。
「おはよ、みわ。なんかスゴイ音がしたけど、大丈夫っスか?」
「涼太……!」
もう、何も考えられなかった。
何日? 何ヶ月? ぶりにやっと見れたその姿が、現実なのか幻なのかももう分からなくて、夢や幻なら、もうこのまま覚めなくていいやって、そう思った。
勢いで抱きついた彼の胸はふんわり柔らかくて、上質なジャケットを着ているんだという事が分かる。
それにしたって、コートは?
12月ももう終わろうという時期に、薄着すぎやしないかな。
「みわ、どうしたんスか……って、え、黒子っち?」
言葉の最後が固くなり、涼太はギュッと私の背中に腕を回した。
「こんにちは、黄瀬君」
追いかけてきた声は、いつもの優しい黒子くん。
振り向けなかった。
勝手に、涼太に抱きつく腕に力が入る。
「……みわに、なんかした?」
しん、まるで雪が積もった日の早朝のように、耳が痛くなるほどの沈黙。
「してませんよ、まだ。これからでした」
「笑えない冗談はやめて貰えねえっスか」
「冗談じゃありません。ボクは、いつでも本気です」
一触即発。
どうしよう。
この2人に、仲違いして欲しくないんだけど……。