第76章 清新
「スマホ……そっか、世の中は、随分とまた便利になったんだね……」
「ぶっ」
女子大生とは思えぬ発言に、つい笑ってしまう。
いつもなら、笑ったオレに拗ねた表情を返したりもするけれど、今はそんな反応をする余裕はなさそうだ。
「私も……使ってみようかな……」
「後で教えてあげるっスよ」
「ん……あり、がとう」
しまった。
思いの外、早く会話が終わってしまった。
下半身が暴走を始める前になんとかしないと。
まだトラウマに苦しめられるみわに、無理はさせられない。
「……私ね」
みわは、再びオレの胸に顔をうずめて、話し始めた。
「涼太と、こういう事するの……事件がトラウマになっちゃってて、ちゃんと出来るか心配だったの」
「……うん」
分かるっスよ。
触れた時の緊張感、挿れる時にもあんなに身体が強張って。
自分でもコントロール出来ない恐怖。
そんなのといつも戦ってるんだ、みわは。
「でもね、ちゃんと……ちゃんとって言うのかな、最後まで出来たし、もうトラウマって……思うのを、やめるの」
「やめ、る?」
やめるって、どういう意味?
みわの言葉の真意が掴めない。
いや、やめられるのならそれが一番だけど、それが出来ないから苦しんでるんじゃないか。
「トラウマって思っているとね、ずっとこころの中に残ってしまうの。私にはこんなトラウマがあるんだって、いつでも考えちゃう。
だからね、それはやめるんだ。……乗り越えるために」
優しい声色とは正反対の、辛い内容。
そこから見えるのは、強い強い、決意。
「私は、大丈夫。だって……涼太の胸は、こんなにも温かい」
「みわ」
なんて、キレイなんだろう。
オレが惚れた女は、なんて強いんだろう。
「…………みわ?」
みわはそこまで言って、反応が無くなってしまった。
顔を覗き込むと、安らかな寝顔。
素直で、でも頑固で。
しなやかな柔軟さも持ち合わせている。
「愛してる」
他の誰にも抱いた事のないこの想い、
夢の中にまで届きますように。