第76章 清新
粟立つ肌。
ひんやりと冷えて、まるで死体みたいだ。
少しでもオレの体温が移るようにさすると、ちょっとだけ、ほんのりと温かくなったような気がした。
「ごめんなさい、私、また……」
みわは、目を伏せて小さくなってしまっている。
青い顔でカチカチと歯を鳴らしている姿が痛々しい。
突然襲うフラッシュバック。
ましてや、こうして肌を曝して触れ合っている今の状況なら、余計に起こしやすいのかもしれない。
「平気っスよ。みわ、目だけは閉じないで。オレを見て」
「うん……」
そう言って合わせた瞳には、色が戻っている。
先ほどまでの錯乱した状態からは、落ち着いたようだった。
冷たくなっていく身体とは対照的に、顔には脂汗。
呼吸も荒い。
過呼吸の発作は、大丈夫だろうか。
もう……今日はここで、やめておいた方がいい。
あの事件があってからまだ数ヶ月。
まだ、傷は生々しく膿んだままだ。
やっぱり、無理させてんスよね。
そう思うのに、頭は少し冷静さを戻しているのに、身体についた欲情の火が消えない。
触れると分かる。
どれだけ求めていたかを。
どれだけ愛しているかを。
「みわ、少しあったかいモン、飲もっか」
戸惑うみわの身体に薄手の布団を掛けて、ベッドを下りた。
Tシャツでも着ようかと思って、でもまあトランクス履いてるからいっか、と考え直す。
……前に、同じこと言ったら怒られたっスね。
そんな事をふと思い出した。
なんでみわばかりが辛い思いをしなければならないんだ。
ずっと思っていて、ずっと答えが出ないこと。
オレが、幸せにしてあげたい。
だって、オレはみわを……
「涼太、ごめんね」
あったかいミルクティーが入ったカップを両手で持って、みわは呟いた。
チラリとこちらを見て、カップを傾ける。
一気にゴクゴクと飲み干す姿に驚く。
熱湯じゃないからヤケドはしないだろうけど……。
「なんで謝るんスか?」
「わ、私……こんな……こんなだから、涼太だって、しようとは、思わなくなっちゃう、よね」
「みわ?」
「涼太……嫌わないで」
その泣き顔に、プツンと理性の鎖がひとつ、切れる音が脳内に響いた気がした。