第76章 清新
「ごめん、っね、大丈夫……」
どくん
どくん
どくん
心臓の拍動の音が、太鼓みたいに頭の中にずしんずしんと響く。
ピアスをつけて貰った時と同じ鼓動のはずなのに、全然違う感覚。
どうしちゃったの。
落ち着け、落ち着いて。
焦って目を固く瞑り、集中しようと、試みる。
暗くなった視界に現れたのは……あの男達だった。
大きく広げられた両足の間から覗く、下卑た笑み。
秘部に突き立てられるたびに走る痛み。
耳に残る罵声、笑い声。
こんなにも生々しく、再生される。
解放されたと思ったのは、夢だったの?
涼太の腕の中に居られると思ったのは、願望が見せた幻?
なにが
ほんとう?
「や、いやぁ、やあ……!」
こわい いやだ
私に触れていたのは 誰?
声、声を出して、助けを
「おねが、や、やー……っ!」
とにかく出来る限りの力を振り絞って手足をばたつかせる。
隙を見て、逃げるんだ。
「……ッハ、ハァ……」
息が、苦しい。
遠くから、声が聞こえる。
あいつらの笑い声?
よく 聞こえない、誰?
やだ、いやだ、聞きたくない。
「みわ」
そう、こう呼んで欲しいのは涼太だけ。
涼太だけだ。
「みわ、オレ、涼太っスよ。目を開けて」
目を……?
「みわ、大丈夫、ほら……ゆっくり」
涼太……?
大丈夫、その声を頼りに恐る恐る瞼を上げると、目に飛び込んで来たのは、いつの間にか照明の大半が消えていた薄暗い部屋でも分かる明るい髪色。
ゆるりと緩む、琥珀色の瞳。
「みわ、目の前にいるのは、誰?」
「……りょう、た」
「ん、正解っス」
よしよし、と頭を撫でる手に、また涙が止まらなかった。
どうして、どうして受け入れてくれるの?
私が昔、お母さんの恋人に犯され続けている時、実のお母さんですら、私の事を信じてくれなかったのに。
私の懇願よりも、ヤツの"コイツに誘惑されたんだ"という言葉を、信じてしまったくらいなのに。
この汚れた身体を見ても、話を聞いても、私は今までと変わらないんだって。
キレイだって。