第76章 清新
「みわ……キンチョー、してる?」
柔らかい声。
イタズラのように耳朶を甘噛みしたり、ぺろりと舐めたり。
「んっ……ちょっと、だけ」
ちょっと、なんて嘘かも。
自分でも分かるくらい、緊張してる。
怖いわけじゃない。
思い出せないの。
どうやって彼と、こうしていたのか。
あの、幸せな時間を。
「無理なら、言って」
優しく触れる長い指。
包み込んでくれる逞しい身体。
まるで初めてのようで、どう反応したらいいのか分からなくなってしまって。
「だい、大丈夫、ごっ、ごめんね、私……早く忘れようと思っているんだけど……」
脳裏に浮かぶのは、あの時の光景。
朧げな記憶の中でも、焼き付いている。
頭が真っ白のまま、凌辱されたあの日。
あれ以来、"セックス"という行為が、歪んだまま記憶されてしまった。
嫌なシーンばかりが、チラつく。
「みわ……無理に忘れようとしないで。忘れなくていい。そんな、簡単に忘れられるようなモンじゃないっスよ」
気持ちが少し、軽くなる。
どうして、責めないの。
私の事、責める権利があるのに。
「涼太……」
「みわに名前呼ばれんの、好きっスわ……すげ、安心する」
ベッドの上に横たわって天井を向いていた身体は容易に反転させられ、涼太の指が背筋を滑る。
「ッ、ん……ぅ」
ゾクゾクと甘い痺れが背筋から腰にかけて、走り抜ける。
暫く撫でられた後、Tシャツはたくし上げられ、指の代わりに温かくて柔らかいものが触れた。
ふにふにと食んだ後、チロチロと、熱く少しザラついた感触のものが触れて。
「ぁ、ん」
背を大きく反らせ、その愛撫を受け入れる。
刺された傷あとにキスをしながら、大きな手がささやかな乳房を包み込んだ。