第76章 清新
海常寮よりも少し大きいこの部屋に、私の声が響く。
寂しく聞こえたその音は壁にすうと吸い込まれて、彼が次に発した言葉で完全に塗り替えられた。
「みわさ……言ってたっスよね、卒業式にピアス開けた時"生まれ変わったみたいだ"って」
「うん……」
言った。
本当に、生まれ変われたみたいだったの。
ガチャンと、耳に穴が開いた音が新しい扉を開いたかのように。
涼太が、一緒に扉を開いてくれたんだ。
「みわはあん時、生まれ変わったんスよ。もう、今日のみわは新しいみわだ。その意味、分かる?」
こくり、頷く。
意味を理解したというよりも、そうありたいと、願望のような気持ちを込めて。
「こころの準備が何かなんて、難しいことはどーでもいいんスよ。みわが、今までみたいにオレが欲しい、オレと一緒に居たいって思ってくれたんなら、それで、それだけでいい」
……欲しい。
一緒に、居たい。
繋がりたい。こころも、身体も。
この間は、気持ちが追いつかないって話した。
あの時は好きで、好きで、好きなのに、気持ちがそれ以上、行けなかった。
迷いと戸惑いばかりで、自分ばっかりで。
でももう、今はこんなにも彼を求めてる。
はしたないって、思われない?
汚いって、思われない?
こんな私が、涼太を求めていいの?
「言って、みわ。みわの気持ち、聞きたい」
ごくり、自分でも驚くほどの音で、喉が鳴った。
「りょう、た……」
口の中が、カラカラだ。
「うん」
「……涼太、すき」
どうして、こんなにも好きなんだろう。
「うん、オレも……好きだよ」
ゆっくりと、大好きな腕の中に引き込まれていく。
涼太が、欲しい。
「涼太……お願い……抱いて……」
続く言葉は甘い口付けで遮られ、音になる前に呑み込まれていった。