第76章 清新
「……なん、で……?」
「へへ、お返し。オレ英語もあんまだし、難しいのはわかんねぇから、そのまんまっスけど」
ピアスに刻まれた涼太の気持ちが、滲んで見えなくなっていく。
ずっと見ていたいのに。
「……ぅ、っ」
視界が滲んで、晴れての繰り返し。
頭が痛くて、鼻が詰まって息が苦しくなって。
「みわ? あああ、そんなに泣かないで欲しいっス!」
なんか、我慢してたものとか、色んなものが大挙して押し寄せて、押し寄せて、もう赤ちゃんみたいにひたすらわんわんと泣いてしまった。
感情表現は、苦手。
激情に任せて行動するタイプではないし、どちらかと言えば普段は理屈っぽいタイプだと思う。
人前で泣いたりするのも……よほどの事がない限り、しない。
……筈なのに、まるで別人になってしまったかのように、涼太の前では丸裸で。
なんにも、隠せない。
強がれない。
彼の前にいる私は何にもなくて、それがすごく恐ろしいのに、どうしてこんなに安心出来るんだろう。
「みわはさ、どんなオレでも受け入れてくれるから……素の自分で居られるんスよね。だからみわも、オレの前では、みわのまんまでいてよ」
涼太が言ってくれた言葉。
素の自分……私のまんまで……
そうだね、本当にそう。
でも。
「涼太……私、分からなくなっちゃった」
「なんスか、言って」
でも、言葉を整える程の余裕が、今の私には無くて。
溢れ出る言葉を無造作に投げ付ける事しか出来ない。
「……涼太、涼太が好き。もう、どうしたらいいのか分かんないよ。涼太が好きで、大好きで、っ、それなのに、っ」
もう、この気持ちをぶつけるしか方法が分からない。
いつもいつも、この恋の事になると、訳わかんなくて。
その胸に、飛び込んでいきたいのに。
「こんな事、涼太に言うのは間違ってると思うんだけど……"こころの準備"って、どうしたらいいのか、わからない……だって、あの事件を忘れるなんて、出来ない。
いつだって、あの時の事を思い出しちゃう」
「みわ」
「私は、一生このままなの? も、もう、嫌なのに、あんな事、忘れたいのに」
喉から勝手に言葉が零れる。
涙と一緒で、止められない。