第76章 清新
どくん、どくん。
心臓が、わあわあと騒いでる。
お願い、ちょっと今それどころじゃないから、静かにして。
涼太はゆっくりと、ピアスをはずしていく。
後ろ側のピアスを止めてるパーツ、なんて言うんだっけ、あれを器用に抜いて。
真横に座っていた涼太は、息がかかるくらいの近さにまで顔を寄せてきている。
近い、近いです、近いです!
「……みわ、耳が真っ赤なんスけど」
「だっ、だって、近いから!」
「いや、キスのが近いっスよね?」
くつくつと耳の後ろから聞こえるからかうような笑い声。
それはそうなのかもしれないけれど、でもそうじゃなくて!
じっくりと見定めるように、ゆっくりと距離を詰められていくと、息まで詰まりそうになる。
「ま、また意地悪……」
抗議をしようとして振り返ったら、もうゼロ距離だった。
目を閉じる暇もなく、むしろ驚いて見開いていた私の視界には、長い睫毛に遮られた、宝石のような瞳。
まるで獲物を捕らえた獣のように光ったそれに、感情ごと呑み込まれて。
キスをされたんだと気付いた頃には、生温かいものが口内を探るように這っていた。
「ん、んん」
だめ、涼太とのキスは、無理、本当に無理!
あっという間に、どっちが天井か分からなくなる。
前も後ろも、右も左も不確かになる。
今日会ってからキスばかりして、そう、キスばっかり、これ、何度目? 分かんないけどもうどうしたらいいのかもう!
口内からジワジワと身体中に広がる快感に力が抜け、涼太にもたれかかる格好になってしまう。
「ん、似合うっスよ」
その言葉の意味が分からなくて、ぼうっとする頭で考えたけど、すぐ答えには結びつかなくて。
乱れた髪を耳に掛けようとして、触れた感触で気が付いた。
「あ……ピアス」
今のキスの最中に付けてくれたみたい。
私とは真逆の、どこまでも器用なひと。
涼太と、お揃いのピアス。
嬉しくて、嬉しくて、飛び跳ねたいくらいの気持ち。