第76章 清新
「さすがみわは、オレよりオレのサイズ、分かってるっスわ」
バッシュに足を通した涼太が、トントンと踵を鳴らしてステップを踏む。
その動きひとつとっても、彼はやはりモデルだ。
凡人のそれとは違う、圧倒的なオーラ。
"オレよりオレのこと、分かってる"
数ヶ月前なら、自信を持って頷いていた。
でも、今はどうだろう。
毎日、涼太がどうやってトレーニングをしているか、今は知らない。
少し厚みを増した筋肉。
こうして離れている間にも、どんどん変わって行っちゃうのかな。
「みわがすぐそばに居てくれるみたいっスね」
でも、散々悩んだプレゼント、気に入ってくれたみたいで良かった。
「こんな高いモン、バイト代、使ってくれたんスか?」
「うん、でもそんなに大したものじゃないの……」
「ごめんね。無理させて。でも、メチャクチャ嬉しいっス」
豪華なプレゼントは思い付かなくて。
つい、私の代わりに彼と一緒に居られるものを、なんて考えちゃって。
これでいいかなって、何度も悩んだ。
でも。
「良かった……」
涼太のその嬉しそうな笑顔で、全部吹き飛んだ。
満足げにしげしげと脱いだバッシュを見つめていた涼太は、何かに気が付いたかのように行動速度を上げて、私の隣に座る。
「カカトに名前の刺繍が入ってる」
Ryota.K……金色の糸で紡がれたそのイニシャル。
名入れサービスを利用しただけで、私は何もしていないんだけど。
「みわの名前も一緒に並べたいっスわ〜」
楽しそうな横顔が眩しい。
また見惚れていると、凄い勢いで涼太が振り向いた。
「わ、っ」
「ピアスどう? 膿まなかった?」
右耳の耳朶に触れられて、思わず身じろぐ。
触り方があまりにも優しすぎて、愛撫みたいだ。
「……ん、膿まなかったよ。毎日ちゃんと消毒もしたし、大丈夫だと思うんだけど……」
消毒も、今では手慣れたもの。
自分の耳に穴が開いているという、時々感じていた違和感も、もう感じなくなっていた。
「じゃ、今度はオレの番。ファーストピアス、外そっか」
どきり、心臓が騒ぎ出す。