第76章 清新
若干ふらつく足で脱衣所へ駆け込んで……手早く衣服を脱いで洗濯物を洗濯機へ放り込んで、自分はバスタオルを巻く。
少し洗剤を貰って、スカートだけは洗面台で手洗いをする事にした。
あんな汚いものをかけられて……。
時間があれば、新しい服を買ったのに。
コンコン、軽くノックする音。
「みわ、洗剤とか分かる?」
「あっうん、大丈夫!」
「着替え持って来たんスけど」
そうだ、私……着替えも持たずに入って来てた。
手が泡まみれ。急いで洗い流して……
そんなことをしている間に、ゆっくりと引き戸が開いていく。
鍵かけるのも忘れてた!?
焦りすぎて全然頭、回ってない!
「おっとごめん、もう脱いでたんスね」
「こっ、こちらこそ、ごめんなさい鍵、あの、ありがとう!」
バスタオル巻いてて良かった……!
でも、涼太は洗面台で作業していた私を不思議そうに見ている。
「あれ、それは? 一緒に洗濯機使っちゃっていいっスよ? あ、ネットはここね」
洗濯機の横に掛かっているメッシュのバッグから、洗濯ネットを取り出してくれる。
「あっ、スカートだけは手洗いするから大丈夫」
「面倒っしょ。手洗いモードにすればいいじゃないスか?」
「……ううん、あの、洗濯機がダメな生地だから、大丈夫。ありがとう」
「……」
「……」
洗濯機がダメな生地のクセに洗面台でバシャバシャ洗っているの、不自然だよね。
うん、分かってる。
分かってるんだけど、うまい言い訳が見つからなくて……。
「みわ」
「……」
やっぱり、誤魔化せない。
あの時の悔しかった気持ちが、悲しかった気持ちが、怖かった気持ちが再度噴出しないように、努めて冷静に話した。
「……チカン」
「あの、でも、お尻触られただけだし、あの」
ぐいと腕を引かれ、次の瞬間には涼太の匂いに包まれていた。
「怖かったでしょ」
労わるような口調に、そんなつもりはないのに涙が滲んできた。