第76章 清新
涼太のベッドに運ばれた私は、脳みそが溶け出てしまっているんじゃないかと思うほど、ぼんやりとしていた。
でも、続きがされる事はなくて。
きっと、歯止めが効かなくなる前にと、彼なりの気遣いなんだと思う。
私がくたりとしているその間に、手際良く濡れた靴下を脱がされ、丁寧にタオルで拭かれる。
「乾かしちゃうっスね、帰りまでに靴は完全には乾かないと思うけど」
そう言われて、様々な事を思い出す。
骨抜きにされている場合じゃなかった。
すぐに帰らなきゃいけないんだ。
ボーッとしている時間なんて1秒もない。
そこでまた思い出す。
汚されたスカートの事を。
赤司さんにはそんな事を話す事は出来なくて、車に乗せて貰った時も、汚された部分がシートに触れないように座ってた。
慌てて、同じようにスカートを纏める。
涼太の寝床を汚すなんて、それこそとんでもない事だ。
手に触れたスカートは、雨によって思いの外濡れてしまっていて、慌ててベッドから降りた。
今まで自分が横たわっていた部分をぽすぽすと叩き、湿気が移っていない事を確認する。
机の上に置かれたケーキの箱と、テーブルの下に置かれた私のリュック。
リュックに手を伸ばしたところで、涼太が戻って来た。
私、大事な事を言ってなかった!!
いや、0時になった時に電話で言ったんだけど!
「涼太、お誕生日おめでとう!」
勢いあまって大音量になったお祝いの言葉に、涼太は少し驚いたようにして、すぐに破顔した。
「ありがと、みわ。一緒に過ごせて、嬉しいっス」
その素直な言葉に、鼻がツンと痛くなる。
こんな、少しの時間なのに。
もっと、ちゃんとお祝いしたかったのに。
ちらり、時計を見ると残り30分もない。
急いで鞄からプレゼントを出そうと手を入れると、スマートフォンが振動している事に気が付いた。
発信者は、今日まさに行方不明になっていた、彼女からだった。
何の用だろう? 急ぎかな、後でじゃだめかな……
「電話、出ないんスか?」
「わっ!」
ヒョイと覗き込まれて、驚いてつい応答をタップしてしまった。