第76章 清新
「ん、っ……」
すり、と唇が触れるか触れないかの優しさで触れ、舌がペロリと下唇を舐める。
もどかしくて、もっと欲しくて。
「涼太……!」
その名前を声に出したら、同時に涙が溢れてきた。
それに合わせて一気に深くなるキス。
彼の肌が触れて、私は服を着ているのに、まるで裸で抱き合っているかのような錯覚に陥る。
「ッ、りょう、た」
涙のせいで、鼻まで詰まって、息苦しくなって……そのせいなのか、頭がくらくらする。
熱い。
頭が、身体がとろけていく。
ぞくぞくと電流のように走り抜けていく快感が、身体の自由を根こそぎ奪う。
「みわ……」
耳元でささめくその言葉は、涼太も私に会いたかったと、そう思ってくれていたのが如実に表れている声音で奏でられた。
まだ玄関を上がって数歩の距離だというのに、ふたりの気持ちは音を立てて燃え上がる。
以前、玄関で抱かれた事がある……そんな事をふと思い出して。
あの時よりも少しオトナになって、お金も少し稼げるようになって、成長していなきゃいけないはずなのに。
私はまた、後退している。
彼を、自らに受け入れられずにいる。
記憶の端にも引っかかっていないのに、自分の大切にしていたものは、いつも全てなくなってしまうんだという、脅迫じみた恐怖に支配されていた。
涼太に全部忘れさせて欲しい。
そんな事、彼にさせられない。
迷いの思考は快楽の渦に呆気なく巻き込まれて、跡形も無くなる。
ただ目の前にある、愛しいひととの甘い時間に、溺れていく。
「……っ、はぁッ、はぁ」
やっと解放された頃には、腰にも足にも力が入らなくなっていた。
がくがくと震える身体を、涼太は優しく微笑んで担ぎ上げていった。