第76章 清新
涼太の家に到着する頃には、驚くほどの豪雨になっていた。
バケツをひっくり返したような、なんて生温い。
滝行のような、低く鈍い音。
「迎えに来て良かったっスね」
「ごめんね、ありがとう」
閉じた傘の先端から滴り落ちる大量の水滴に驚いて目を奪われたままそう言うと、大きな手が、くしゃりと頭を撫でた。
「ホントは途中の駅まで迎えに行こうかと思ってたんだけどさ、電車止まっちゃってたから、駅で待ってたんスよ」
「そう、だったんだ。待たせちゃって、本当にごめんなさい」
何時から居てくれていたんだろう。
待っている間って、永遠かのように時間が長く感じるのに。
おまけに、私が赤司家の車に乗せてもらった事を車内から連絡したから、車が通る道路の方へわざわざ移動して。
通行止めになっている事を後から知って、畑道の方に向かってくれたらしい。
あと1分でも遅かったら、荷物もケーキもプレゼントもびしょ濡れだっただろう。
涼太のお陰で、足元が濡れただけで済んだ。
「はいみわ、タオル」
彼らしく、玄関に用意してあったタオルを私に渡してくれた時に、気が付いた。
白いシャツだったから一見分からなかったけど、涼太……びしょ濡れだ。
「りょ、涼太っ、こんなに濡れて、大変!」
私、自分の事ばかりで全然気がつけなかった。
涼太、私に雨が当たらないようにしてくれてたんだ。
「んー? ヘイキヘイキ、着替えちゃうし」
水のせいで肌に張り付いて透けたシャツが、隆々とした逞しい二の腕を映し出す。
タオルで髪をゴシゴシと拭いて、乱れた髪をまとめるようにかきあげたその姿に、見惚れてしまう。
大きくてゴツゴツとした手なのに綺麗で器用な長い指は、シャツのボタンを素早く外していく。
シャツの下に隠されていた素肌が晒されて、その仕上がった肉体に、思わず息を呑んだ。
「……き、れい」
刹那。
その言葉ごと、唇を奪われた。