第76章 清新
会いたくて、会いたくて。
夢に見るまで、会いたかった。
3ヶ月近く、会えなくて。
小さな画面に映るメッセージの文字ですら愛しくて、スピーカーから聞こえてくる甘やかな声に溶かされて。
それが、やっと、やっと会えたんだけど。
会ったらあれ話そう、これ言おうって思ってたのに、顔を見たら何にも出てこなくなっちゃった。
「いきなり降ってきたっスねぇ……話は後にして、家行こ」
抱いてくれた肩が、熱くて。
密着した身体は、もっと熱くて。
突然の雨のせいで、急激に上がった湿度のせいかな。
ふわり香る涼太の香りが、こんがらがった頭を更に混乱させる。
梅雨に、こんな豪雨……今までなかったのに。
まるで、我慢して我慢して我慢してたものが、私の代わりに堰を切ったようで。
「傘持ってなかったんスか? みわにしては珍しいっスね。絶対鞄に入れてんのに」
そう……いつも入れてる。
ましてや、今は6月。
雨の活動シーズン真っ盛りだ。
その、"いつもの当たり前"が崩れるくらい、今日は特別だった。
特別だったのに。
全部、私のせいで台無しに。
台無しにしちゃった。
一緒に居られる時間なんて殆どなくて。
次はいつ会えるかなんて分からないのに。
「まーた赤司っちに借り作っちゃったっス」
「……うん」
ごめんね、ごめんね。
後悔ばかりがこころを支配する。
それなのに。
「……あー、会いたかったっスわ……」
視界が一面涼太になって、ふにりと、彼は私の下唇を撫でるように食んだ。
その言葉と、そっと一瞬重なった唇が、そんな醜い気持ちごと、ころんと奪っていく。
どうしよう、もう……いま、会ったばかりなのに……
離れたく、ない。