第76章 清新
「赤司さん、それってどういう……」
「あ、ケーキの店はそこかな? パティスリーの看板が見えるよ」
赤司さんが指差した先には、インターネットに載っていた写真と同じ建物。
「ここです! ありがとうございます!」
急いで車を降り、ショーウィンドウから中を覗くと、片付けをしていたらしい店員さんが気付いて、入り口を開けてくれた。
頼んであったケーキを受け取って、再び車の中へ。
……何の話をしてたんだっけ?
安心したら、気が抜けて……
「じゃあ、黄瀬の家に向かうよ」
「すみません、よろしくお願いします」
……あ、そうだと思い出したけれど、もう話題は違うものに変わっていて。
また、機会があれば聞いてみよう……。
「……あの時は、力になれなくて本当に申し訳なく思う」
「いえ、本当にそんな事ないんです! 赤司さんがいなかったら、多分……」
「何か、俺に協力出来る事はあるかな」
協力出来る事……?
「いえ、もう十分にして頂きましたので、本当に」
赤司さんが気に病む事なんて、何もない。
もう、これ以上彼に何かを求めるなんて、贅沢すぎてバチが当たるというか。
「いや、本当に何か、俺に手伝える事はないかな」
ここまで食い下がってくるのも珍しくて……でも、本当に今、思い付かないんだもの。
「……分かりました。じゃあ、困った時には赤司さんに頼らせて貰ってもいいですか?」
「なんなりと」
そう言うと彼は少し安心したような、ガッカリしたような複雑な表情を浮かべた。
皆、優しいんだ。
黒子くんもそう。
その優しさに、今まで甘えすぎた。
これからは皆に、この気持ちを返そう。
そうこころに誓ったまま、車は国道を進んでいく。
21時過ぎには、涼太の家の最寄駅に到着した。
1時間は一緒に居られる!!
「あの、ここで大丈夫です」
「黄瀬の家まで送って行くよ」
「いえ、もう、すぐですので!」
涼太の住んでいるアパートに繋がる大きな道路が、ここ数日の間の大雨のせいで、通行止めになってしまっていた。
後は、車は通れないけれどひとは歩くことが出来る畑道がある。
赤司さんにはその手前まで送って貰った。
車が小さくなったのを見送って、歩き出した直後。
天から降ってきた大粒の雫が、髪を濡らした。